2009-03-31 | 23:36
お題 「花火」
季節はまだ春のこと、梅雨すら訪れていないのに花火を空に打ち上げるって言うのはどうもおかしな感じがしないでもない。
まぁ、遅かれ早かれいつかは空で花咲かすんだ、ちょっとくらい我まま言って打ちあがってもらっても構わないだろう。だから俺はこうやってここで準備を進めているのだ。
まだ夕暮れだが、この時間帯から用意を始めて、酒を飲んでとうとう花火ってなる頃には夜もふけている。なぁ、そうだろ?
隣へ視線を写しても誰もいない。あるのは石だけ。他には何もない。分かっているさ、俺は、今となっちゃ一人なんだ。
星が我が物顔で夜を占拠する時間に、酒をあおっている。肴に烏賊がないのがいささか残念だが、飲み始まってしまった以上、今更動きだすも面倒だ。隣には火をつけるだけで空へと舞い上がるでかい花火が腰を据えて待っているのだ。だったら、時間が来るまで飲み続けるしかない。また一杯、胃へとアルコールが流し込まれる。
「アンタ、あんま飲んじゃダメでしょ?」
「うるせぇよ」
幻聴か、と思いながら、酒を器に注いだ。一時期酒に溺れ、迷惑をかけたな、と思う。あの時の俺は馬鹿だった。自暴自棄になって、全てほっぽりだして、助けてくれようと手を伸ばしてくれてるヤツの手を噛み千切ったのだ。
「医者に行くようになっても知らないよ?」
「うるせぇうるせぇ」
そうやっていつも他人の心配ばかりだ。俺の体ばっかりに気を使って、怒鳴り返されて、それでもまだ俺に気を使う。馬鹿なんじゃないか、と思うが、俺と一緒になったんだ、そうだ、馬鹿なんだ、と心で笑った。そんな馬鹿だから、体をぶっ壊したんだ。もうボロボロで、立ってもいられないってのに、二の次には大丈夫か、無理しないで、とまた他人のことだ。
「ほら、私は大丈夫だから」
「うるせぇ、黙りやがれ」
喋ったら体に毒なのに、それでも喋る。黙ってると、その空気をわざわざ壊して、真剣とは無縁の喋り方で俺を怒らせる。医者がもうダメだっていってんのに、お前は二本足で立って、飯を作って、すぐ倒れてた。止めろって言ってるのに、俺の目を盗んでは無理をしていた。何でこんな俺のために、そこまでするんだか。それほどの価値が俺にあるのか? ないだろう、ほら、目を覚ましやがれ。言っても、もう声は届かない。
「今まで、ありがとう、アンタ」
「うるせぇ……本当に黙りやがれ」
最後の最後くらい、言うことを聞けと思った。いくらいったって、俺の手を強く握って離さず、ずっとずっと微笑んでやがった。顔は真っ青になって、体中震えているってのに、必死に笑みを作ってた。涙なんて恥ずかしい、と言われたが、そんなこと気にしてる余裕はないだろう。でも嬉しい、と言われたら、止まる涙も止まらないだろう。なんで最後の最後まで、俺と一緒にいてくれたんだ。早く逃げちまえばよかったんだ。俺はクズで、何かしてやったことなどなかった。
「まずい酒だ」
感傷的になってるなんて知られたら、くすくすと笑うんだろう。俺らしくないと言いながら、酒をついでくれるに違いない。そしたらそこにはきっと烏賊もあるんだろう。でも、そんなのは現実にならない。
「そろそろ頃合、か」
また隣を見る。やはりそこにあるのは石だけ。
「これが俺の精一杯よ」
そうやって打ち上げた花火は季節外れながら、夜空に大きく咲いた。
心なしか、ありがとう、と声が聞こえた気がした。
幻聴だ幻聴。そう思ってまたまずい酒に手をつけた。
闇に大きく色を残した火は、もしかしたら、あいつにも届くかもしれない。
だから俺は打ち上げるのだ。毎年、この日に。
季節はずれの打ち上げ花火を。
季節はまだ春のこと、梅雨すら訪れていないのに花火を空に打ち上げるって言うのはどうもおかしな感じがしないでもない。
まぁ、遅かれ早かれいつかは空で花咲かすんだ、ちょっとくらい我まま言って打ちあがってもらっても構わないだろう。だから俺はこうやってここで準備を進めているのだ。
まだ夕暮れだが、この時間帯から用意を始めて、酒を飲んでとうとう花火ってなる頃には夜もふけている。なぁ、そうだろ?
隣へ視線を写しても誰もいない。あるのは石だけ。他には何もない。分かっているさ、俺は、今となっちゃ一人なんだ。
星が我が物顔で夜を占拠する時間に、酒をあおっている。肴に烏賊がないのがいささか残念だが、飲み始まってしまった以上、今更動きだすも面倒だ。隣には火をつけるだけで空へと舞い上がるでかい花火が腰を据えて待っているのだ。だったら、時間が来るまで飲み続けるしかない。また一杯、胃へとアルコールが流し込まれる。
「アンタ、あんま飲んじゃダメでしょ?」
「うるせぇよ」
幻聴か、と思いながら、酒を器に注いだ。一時期酒に溺れ、迷惑をかけたな、と思う。あの時の俺は馬鹿だった。自暴自棄になって、全てほっぽりだして、助けてくれようと手を伸ばしてくれてるヤツの手を噛み千切ったのだ。
「医者に行くようになっても知らないよ?」
「うるせぇうるせぇ」
そうやっていつも他人の心配ばかりだ。俺の体ばっかりに気を使って、怒鳴り返されて、それでもまだ俺に気を使う。馬鹿なんじゃないか、と思うが、俺と一緒になったんだ、そうだ、馬鹿なんだ、と心で笑った。そんな馬鹿だから、体をぶっ壊したんだ。もうボロボロで、立ってもいられないってのに、二の次には大丈夫か、無理しないで、とまた他人のことだ。
「ほら、私は大丈夫だから」
「うるせぇ、黙りやがれ」
喋ったら体に毒なのに、それでも喋る。黙ってると、その空気をわざわざ壊して、真剣とは無縁の喋り方で俺を怒らせる。医者がもうダメだっていってんのに、お前は二本足で立って、飯を作って、すぐ倒れてた。止めろって言ってるのに、俺の目を盗んでは無理をしていた。何でこんな俺のために、そこまでするんだか。それほどの価値が俺にあるのか? ないだろう、ほら、目を覚ましやがれ。言っても、もう声は届かない。
「今まで、ありがとう、アンタ」
「うるせぇ……本当に黙りやがれ」
最後の最後くらい、言うことを聞けと思った。いくらいったって、俺の手を強く握って離さず、ずっとずっと微笑んでやがった。顔は真っ青になって、体中震えているってのに、必死に笑みを作ってた。涙なんて恥ずかしい、と言われたが、そんなこと気にしてる余裕はないだろう。でも嬉しい、と言われたら、止まる涙も止まらないだろう。なんで最後の最後まで、俺と一緒にいてくれたんだ。早く逃げちまえばよかったんだ。俺はクズで、何かしてやったことなどなかった。
「まずい酒だ」
感傷的になってるなんて知られたら、くすくすと笑うんだろう。俺らしくないと言いながら、酒をついでくれるに違いない。そしたらそこにはきっと烏賊もあるんだろう。でも、そんなのは現実にならない。
「そろそろ頃合、か」
また隣を見る。やはりそこにあるのは石だけ。
「これが俺の精一杯よ」
そうやって打ち上げた花火は季節外れながら、夜空に大きく咲いた。
心なしか、ありがとう、と声が聞こえた気がした。
幻聴だ幻聴。そう思ってまたまずい酒に手をつけた。
闇に大きく色を残した火は、もしかしたら、あいつにも届くかもしれない。
だから俺は打ち上げるのだ。毎年、この日に。
季節はずれの打ち上げ花火を。
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