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お題「世紀末」

2009-04-29 | 22:45

本日の教訓:チャットしてると小説ぜんぜんすすまねぇ、まとまらねぇ(ぁ

お題「世紀末」


 私は今困っている。
「さぁ、世紀末にするわよ!」
 どうにかして眼前の阿呆を止めなければうけないからだ。



 原因は一冊の本だった。阿呆がそれこそ寝るのも忘れて熱中して読み込んでいたその本は、背表紙からして胡散臭さが全開だった。
“新約世紀末の薦め ~今日本を壊す時~”
 初めて見た時は、目の神経が死んだのかと思ったほどだ。二度見しても、背表紙の文字は変わらないし、何よりもの凄く元気な阿呆を見る限り、これはリアルに他ならないのだ。これが一般人であるなら、周りから真っ白い目で睨まれ、己の間違いに即座に気づくはずなのだが、阿呆はちょっと事情が違う。
 この阿呆、天才なのである。
 風邪薬、という物がある。以前まで出回っていたのは、風邪を和らげるだけで、直接病原体を殺す物ではなかった。飲むと一発で病原体を駆逐する、そんな物は作れるはずもなく、薬が完成するのは遠い未来の話だと思われていた。しかし、阿呆はそれを作ってしまったのだ。そしてその方法やら権利やらを全て政府に丸投げした。その理由がこれまたぶっ飛んでおり、授賞式だの何だのという面倒なことに触れたくないからだという。それでも阿呆が天才に変わりはないので、世の中のネジが何処かで狂っているんではないかと思えてならない。
 そんな阿呆が本気を出すと、世界に出回るウィルスなどあっさり凌駕してしまうような、殺人ウィルスとかでも作りかねないのだ。つまり、助手である私はそれを止めなくてはいけないのだが、いかんせん、阿呆には何を言っても基本通じない。思考回路がやはりバグっているとしか思えないほどにだ。
「何でそんなこと言い出したんですか?」
「本に書いてあったから!」
 違う。私が聞きたいのはそこじゃない。
「いやいや、本に書いてあったからって、鵜呑みにする必要ないと思いますけど」
「そう? 本っていうのは誰かに真実を教えるためにあるのよ?」
 何処でどう道を間違えたらその解釈に辿り着くのか。嘘八百ばかり連ねてある本も山ほど出回っている。
「あー、もう分かりましたよ。じゃあ具体的にどうするんです? どうせ方法も何も考えてないんでしょう?」
 私は馬鹿にしながら鼻で笑ってみるが、内心どきどきである。そんな方法、この阿呆の手にかかれば一発で出てきてしまうからだ。
 すると思いのほか、阿呆は落胆し、肩を竦めた。よかった、まだ何も考えていなかったのか、と安堵した自分の心は、次の一言で綺麗に崩壊することとなった。
「ちゃんともう必要な物は作ったよ! 私ってそこまで馬鹿にされてるの?」
 阿呆の片手で揺れる紫色の液体が入ったフラスコ。一瞬、世界が硬直したように感じ、少し目を逸らしたくなった。だが、フラスコの中で、音を立てながら揺れ動く液体は確実に今存在している。頬をつねってみるが、ここで都合よく夢を見ているというわけではないらしい。怖いが聞くしかないだろう。
「えーと、何ですか? それ」
「聞いて驚け、私を崇めろ!」
「……」
「あ、えーと、その、言い過ぎたから聞いてくれる?」
「え、あ、はい、聞きます」
「なんと、この液体を海に撒くと、生態系が崩壊して、二日後には海の生物が死に絶える!」
 どうしよう、本当にとんでもウィルスを作っちゃったよ、この阿呆。だが、私はまだまだ甘かったようだ。次に阿呆の手から出てきたのは、黄色の液体が入ったフラスコだった。
「そしてこれを地上に撒くと、人間がばったばったと死んでいくわ!」
  嫌な汗が止まらない。阿呆は本気でこれを撒く気満々である。
「えーと、掻い摘んで言うんですけど、今すぐそれを安全に処理して捨ててください、ってか、捨てろ」
「ちょ、一応あなたは私の助手でしょ? 少しは私のやることを信頼したらどう?」
「信頼も何も、それやったら全員死んじゃうんですよね?」
「勿論」
「それって私も死ぬじゃないですか」
「あ……うーん、それは困る」
 今更なのかよ、という突っ込みは置いておいて、肩の荷がゆっくりと取れていく気がした。しかし、阿呆は何処まで行こうが阿呆である。
「よし、こんなのやーめた!」
 そういって阿呆は窓の外へフラスコを投げたのだ。
 そう、あの殺人ウィルスが入っている、世界レベルで危険なフラスコを。



 ――後日
「反省は?」
「してます。でも後悔はしていないよ!」
「この阿呆!」
 何故か生きている人類は何もなかったかのように、また今日を過ごしていた。
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お題「クラシカル」

2009-04-27 | 17:16

お題「クラシカル(古風な、古典的な)」


 総括して僕は古い物が好きなのである。
 至極どうでもいいことなのだが、最近部屋に溢れ返る物を見てそう思ったのだ。大きさ六畳半の板の間には、足の踏み場もないくらい、それこそ誰かが見たらゴミと思われてしまうような物がごろごろと転がっているのである。この場所は最初からこういった物置ではなく、客人用のスペースとして日頃空室にしておいた場所であった。しかし、通年来客は減り、このまま折角のスペースを腐らせるのももったいないと思い、この場を物置にしたのだ。
 そのことが一因となってか、僕の収集癖はますます悪化の一途を辿る形となってしまった。以前であれば、いい物を、もちろん古い物を、見つけた時も、置く場所がないと理由付け諦めていたが、その心配がなくなったのである。すると僕は、さながら首輪の取れた犬のように暴れる形となり、この目に写った物を買い漁ってしまっているのだ。
 これといって他人に迷惑をかけるような趣味ではないが、一つ問題が出来てしまったのだ。それは、この物置部屋にもう買ってきた物を置いておくスペースがなくなってきてしまっていることだ。
 はてどうしたのものか、と思考を巡らし辿り着いたのは、一度この部屋を掃除しようということだ。恐らく衝動買いしてしまった物もあるだろうし、いらぬ物はそれこそゴミとして捨てようという思惑で、僕は掃除を始めることにした。
 部屋は埃まみれになっており、一歩部屋の中を動くたびに、それが舞い上がる。こういった時に、怠惰な自分を恨めしく思うが、時が過ぎるとそんなこと忘れてしまい、また同じ目にあうまでは、脳みその端っこに追いやられているのである。
 購入してきた軍手で、部屋にある物を一度外に出すことにした。近所のスーパーから貰ってきた段ボールに物を一つずつ詰め、満杯になるとそれを庭へと運ぶ。中には段ボールになど入りきらない物もあるので、それは部屋に残しておくことにした。
 おおよそ三時間もの時間をかけて運び出した段ボールの数は全部で五個にもなり、よくこれだけ集めたもんだと、我ながらに関心してしまう。
 濡れた雑巾で一つずつ丁寧に汚れを拭き取りながら、どれが必要で必要ないかを分別していく。
 最初に手を伸ばしたのはレコードである。僕は別に音楽が好きな訳でも、幼いころに嗜んでいた訳でもない。しかし、古いレコードショップなどを見つけると、ついそれに惹かれるモノを覚え、中に入ってはお土産として聞きもしないレコードを買ってしまうのだ。僕が持っている物の中には一度も聞かれたことのないレコードもあり、どんな音楽なのか少し興味がないこともない。ただ、僕にはそれを聞く手段がないのだ。何故なら、レコードを聞く道具を持っていないからだ。
 次に手を伸ばしたのは、仏像だった。鈍い光を放つ銅の色がこれまた美しく、人はこれを求めてしまうだろう。何せ僕がその一人だったのだから。仏像を拭き終え、同じように像らしき物を取り出すと、それは仏像ではなく、イエス・キリストをモチーフにした仏像であった。石膏で作られた像は細部にまでこだわっており、色彩を持ってしまえば動いてしまいそうなほどだ。別段どの宗教を崇拝しているということはなく、ただ、この像たちに魅入ってしまい、買っただけのことである。
 段ボールの一つを丸々埋め尽くしている本がある。カバーはよれており、何が書いてあるのか分からないが、日本の物ではないということくらいは分かった。一冊を取り出すと、辞書よりも厚く、それなりの重みがあり、色落ちしてしまった表紙は歴史を感じさせた。どうやら本は続きモノらしく、みなに番号が振ってある。これだけの量ということは、どれほど壮大な物語なのだろうか。作中の風景に思いを馳せるだけでも、こんなに幸せな気持ちになれるのは、きっとこの本が古いおかげなのだろう。やはり、この重圧感こそが期待を膨らまし、人々に代々受け継がれている証拠なのである。しかし、僕はこの物語を読んだことはない。というよりも、読めないのである。一ページを開くと、まず字が読めない。二ページ目を開いても字が読めない。文字が擦れて読めないのではなく、単に僕が外国語を理解できないだけのである。
 一日中かけて段ボールの中身を綺麗にし、元に戻してみたが、これといって捨てようと思った物はなかった。しかし、よくよく考えて見ると、この段ボールをそのまま部屋に戻してもスペースが残っている。この方法であれば、物を捨てる必要もなく、且つ、新しく古い物を買って来ても問題はない。
 何かにつけて古い物を買うが、僕はそれを使うことはない。用途は分からないし、それを扱うための道具もない。でも、買って来てしまうのである。それは、古の時代からここに残り、人が残した財産だからである。自然が作った物も勿論すばらしい。しかし、人の想いの結晶は、それと同等、いや、それよりも勝ることがあるのである。このクラシカルな雰囲気は、人魅了し狂わせ、手元に置いておきたいという欲を発生させるのである。人は本能でこれを求め、気がつかぬうちに手を伸ばし、己の身を傷つけ滅ぼしてでもそれを欲するのだ。
 つまり何が言いたいかと言うと、総括して僕は古い物が好きなのである。

お題「ありえない話をしよう」

2009-04-25 | 23:56

お題「ありえない話をしよう」


「ありえない話をしてやろうか?」
 銃弾の飛び交う戦場の中にある壊れた家屋の中で、一人が言う。
「戯言はいい、早く殺せよ」
 最初に口を開いた男の手にはアサルトライフルが握られていた。その銃口の先にいる男は、右腕を失い、武器も何も持っていなかった。銃を持つ男は三十代後半と思われ、顔には年季の入った傷がいくつもあった。
「この戦、後どれくらい続くと思うか?」
「知らないね。俺たちの軍が勝つまでじゃないのか?」
 皮肉を含めた若い男は、右腕に走る痛みに耐えながら、男を睨み付ける。
「実はこういう通信が俺たちの軍に流れているんだ」
 男は腰に下げていた通信機のボタンを押して、若い男の耳元へと近づけていく。ノイズ音の中に、何かの宣言のような声が混ざっていた。
“我が軍は”“戦争に”“勝利”“無事”“首都を”“占領した”
 若い男の顔が青ざめ、体が震え始めた。
「う、嘘だ! こんなの、こんなのありえない話だ!」
「だから言ったじゃねぇか。ありえない話だと。でもな、これが現実だ。お前らとの戦が始まってかれこれ時間がたつが、後方から支援物資と兵が山ほど届いた。そいつらは首都殲滅作戦の兵で、そのままこっち流れてきたんだ」
「……」
 実際、今回の戦は、当初の予定と違っていた。戦力は五分五分、地形の利は若い男の軍にあった。しかし、実際に戦闘が開始されると、状況は一変した。男側の軍の圧倒的な戦力により、兵は次々と討たれ、生き延びた兵は少しでも敵兵を倒そうと、こうやって家屋でチャンスを待っていた。
「で、本当のありえない話なのはこれからだ」
 男はそこで一息入れてから、話を再開する。
「投降しろ」
 若い男は怒気に満ちた声で、怒鳴り返す。
「ふざけるな! 誰が捕虜になど!」
「じゃああれか? 掃討作戦時まで生き残って、体中穴だらけになりたいか? そんなに死にたいか?」
「死などこの軍に入ってから覚悟している!」
「ほぉ、じゃ、これは何だ?」
 男は懐からロケットを取り出す。若い男はそれを目にすると、左手で自分の首に手をあてた。しかし、そこには何の感触もない。
「それは俺の……」
「お前さんがここに入るときに落としちまったもんだろ? で、この中に入ってる写真は何だ?」
「……」
「帰って来るのを待ってる人間がいるんじゃないのか? あ?」
「だが……それでは軍人としての誇りが……」
 若い男がそこまで言ったところで、男はその頬を殴った。突如の痛みに若い男は困惑しながら、咄嗟に左手を頬にあてた。
「そんなにその誇りが大層なもんか、胸に手あてて考えてみろ」
 男の一言は、若い男の胸を深くえぐった。今の今まで仕舞い込んでいた感情が沸き起こるのを感じていた。
「……だが、捕虜になって拷問され、死んでいく可能性だって……」
「ねぇよ、それは、な」
 男は若い男の左に回りこみ、その肩を担ぐ。
「どうしてそう言える?」
 男はけらけらと笑って言った。

「さっきの放送で喋ったのは俺だから、な」

お題「百分の一の可能性」

2009-04-24 | 00:12

もうちょっとほのぼのさせてよかったか……主人公性格悪いなぁ……


お題「百分の一の可能性」

「なぁ、百分の一の可能性ってどれくらいだと思う?」
 自らを俺の親友となる阿呆がそんな馬鹿なことを聞いてきたので、適当にあしらうことにした。
「お前が真面目になるくらいじゃないの」
「ちょ、俺はいつでも超大真面目じゃん」
 ご立腹であるらしく、頬をわざと膨らましてぷりぷりと怒り出す。あまりのうざさについ足が出てしまい、めごん、という凄く嫌な音がする。
 声にならない悲鳴を上げながら阿呆は床をごろごろと転がった。その姿も見苦しかったので足で踏んづけてやった。
「いくらなんでもひどくないか?」
 顔全体に靴の後が綺麗に残った阿呆が起き上がる。つい舌打ちをして、毒を吐く。
「ちっ、生きてたか」
「正義は死なないのさ」
 これ以上蹴ると後遺症がでる気がしたので、阿呆の頭を掴んで、そのまま頭突きをかます。あ、という言葉を言い続けながら、阿呆がどさり、と崩れていく。俺も少し痛むが、これで五月蝿いのが黙ると思うと、別に構わないことだ。
 阿呆を放置して、俺はとある作業に集中することにした。いや、最初から集中していたのを、こいつが邪魔してきたのだ。なので、俺がやったことは罪に問われない正当防衛に当たるのだ。困るのは、こいつの行動が日に日にエスカレートしていることだ。こないだは気づいたら部屋の中にいた時は流石に警察を呼ぶことを考えたほどだ。
「ふふふ、それでは俺は死なない……」
 阿呆がゆらりと起き上がるが、まっすぐ立ってられずにふらふらとしていた。押しただけで倒れそうだが、面倒なので放置することにした。
 阿呆に背を向け、さっさと歩こうとするが、急に背中に何かが抱きついた。
「何処に行くのー。俺もー」
「お前だけ地獄に落ちろ!」
 肘打ちを二回、膝を一回入れるコンボを決めて、背中に張り付く阿呆を剥がす。
「いい加減訴えるぞ」
「大丈夫大丈夫。まだそんな危ないことしてない」
 しっかりといろいろ叩き込んだはずなのに阿呆は立ち上がり、また俺に突っ込んでくる。
「来るな!」
「そう言わないでマイハニー」
「誰が、ハニーだぁ!」
 両手を前に出して突っ込んでくる阿呆の顎を高らかに蹴り上げ、浮いた体に再度頭突きをぶち込む。恐らくまだ死んでいないので、落ちていく体に更に足を加えて、地面へとたたきつける。がらがらの背中に膝の追い討ちをかけてフィニッシュ。
「なんで俺と仲良く出来ないかなー」
「……不死身かよ」
 止めも何のその、といった様子で阿呆が起き上がる。こいつは本当に人間なんだろうか。
「お前と仲良くなるなんて、それこそ百分の一の可能性だっての」
「つまり一回は仲良くなるチャンスがあるんだね?」
「そう思うんだったらまた後で出直しやがれ!」
 恐らくこの阿呆は、明日も明後日も、来年も十年後も、結局未来永劫俺に付きまとうのだろう。
「じゃ、今度こそ俺の許婚ということを認めさせるからな!」
「断る」
 自分が変な家に生まれて、男じゃない形で生まれてきたことを後悔しながら、阿呆に最後の蹴りを入れておいた。

お題「引き金」

2009-04-23 | 00:30

お題「引き金」



「こんな場所で戦争しろというんですか!?」
 誰かが叫んだ。若い男は、上官に向かって激しく講義していた。
「何もないじゃないですか! 普通の、ただの、一般人が生活をしているだけでしょう!」
 若い男はとある部隊から配属された新米の兵士だった。まだ幼い年齢ということもあるのか、その台詞は偽善といわれればそれに近いものの、彼は本心からそれを喋っていた。まだ青臭い理念を掲げつつも、兵士としては立派である。
 しかし、上官にとってそんなのはまったくをもって関係がない。今問題があるのは、若い男が上官に敬語を使わなかったこと、そして、自分の提案した作戦について、文句を言っている人間がいるということ。
「君、年は? 私は君の何倍生きていると思っているんだ? 敬語はどうした敬語は? そんなに銃殺刑にでもされたいか?」
 若い男は恨めしそうに上官を睨んだ。この場では、全てにおいて地位が優先される。その作戦内容が、たとえ間違っていたとしても。上官はそれを含め、若い男のことをあざ笑った。そして彼に聞こえないように言葉を漏らす。「お前たちは大人しく金儲けの道具になってればいいのだ」
 実際、街には何もなかった。子供が学校に行き、母親は子供の頭を撫でてやり、父親は妻と子のために汗水を流していた。たった、それだけだった。この場所を襲う理由、それは略奪だった。
 中でテロリストをかくまっているという紛れもない嘘を誰かに流させ、それを掃討するという目的で、明日、この街に攻め入るというのが今回の作戦内容だった。だが、実情はそこでかみ合わないことになる。殺戮が終わると、家中を探し回り、証拠品として金品を押収するのだ。
 若い男は歯を食いしばりながら仲間が待機している一室へと戻った。そこには彼よりも年齢を重ねた兵が五人。他の兵は外にいるか、既に寝ているかのどちらかだった。その中でも一番年老いた兵が口を開く。
「どうだ、若いの? 無理だったろう?」
「はい……」
「辛いとは思うがな、これが戦争だ」
「でもその前に私たちは人のはずです!」
「……甘い、甘い。そんな考えもったままで戦場に出ようってのか?」
「……」
「お前の気持ちがわからんでもない。だがな、躊躇したらお前が撃たれることになるぞ?」
「でも……!」
「はぁ……何を言ってもわからんか。しょうがないな、まだその年ではな」
「年齢の問題ですか? 年齢だけで人は何もしてはいけないんですか? だったら私のような若い人間は! 何も!」
「馬鹿か、お前は」
 老兵はにやり、と笑った。
「そのために俺たちのような年寄りがいるんじゃないか」



 翌朝、作戦決行の時間帯となった。
 兵たちはそれぞれの武装をし、与えられたミッションを完遂しようとしていた。その後方にて上官が口を開いた。
「さて、今回はどれほど設けるかな?」
 しかし、それから五分が過ぎようとしているにも関わらず、兵たちは一歩も動かなかった。
「? どうした、早く行け! 戦闘はもう始まっているんだぞ!」
「残念だが、誰もあんたの言うことなんか聞かんよ」
 老兵が武装を肩にかけながら、上官に近づく。
「ふざけたことを! 私に逆らうとどうなると思っている!」
「どうにもならんさ、お前さんはもう、俺たちの上官じゃあない」
 老兵はそういって上官に何かを投げつけた。上官がどうにかそれを受け取ると、音声の再生が始まる。それは前日に若い男との口論の内容だった。そして、最後の一言まできっちりと録音されていた。
「あんたは今の役職を剥奪。そして刑務所の中、だ。余罪分もしっかりと償うんだな」
「……貴様か? こんなことをしたのは?」
「おお、そうだとも。昨日はこの音声をみながリアルタイムで聞いていたぞ」
「ふざけた真似を!」
 上官が腰のケースから拳銃を引き抜く。ロックは既にはずされ、引き金を引くだけで銃口から黒い凶器が飛び出すことになる。上官は何も躊躇わず、その引き金に指をかけた。しかし、それと同時に、高速で何かが飛来する。人間の目には見えない何かが、上官の拳銃だけを的確に捉え、一瞬でそれを粉砕した。
 老兵は満足そうに頷いた。
「若いくせにいい腕してやがる。さぁて……」
 若い男は影の中で大きく息をついた。そして、老兵に姿を見せて、親指を立てた。
「「ミッションコンプリート」」

お題「道化」

2009-04-22 | 00:11

つくりがあまいです
そしてSSではないです
あーあー
努力します


お題「道化」


 君はサーカスという見世物をしっているかい?
 平たく言えば一つの芸をたくさん見せるとこなんだ
 その中にはね、道化師っていうお茶目なキャラクターがいるんだよ
 それはそれは不思議なことや、あっと驚くようなこと、お腹が痛くなるまで笑える面白いことをやってくれるんだ
 どう? 興味を持ってくれたかな?
 じゃああそこにある建物の中においで
 僕たちはそこで待ってるからね


 僕はその日、世界に絶望を見たんだ。
 隣を見れば、お母さんの頭が転がって、背後に目をやればお父さん”だった”ものが倒れてて、目を瞑ると僕に助けを求めて逃げ走る友達の顔が浮かんでくる。
 夢であったらいいのに。自分の中で何回そう言っただろう。いくら願っても希望の光が差すことはなく、ただただ絶望の闇の色は深く、触れたら全て消えてしまいそうだった。
 空を見上げれば痛いほど激しい雨が降っていた。僕の頬から流れているのは涙? それとも、この雨のせいなのか?
全ては過ぎ去って、全ては終わりを迎えていた。その後には悲惨な光景だけが広がり、生命は全て息絶えていた。それなのに、僕はここに生き残ってしまった。黒く煤だらけでぼろぼろにやぶれはてた服の内は、炎で焼け爛れていた。胸に手をあてると、紛れもない心臓の鼓動が、何の異常もなく鳴り続ける。どうして僕を殺してくれなかったのか。どうして僕も意識がなくなるように、この生きているという実感を持たないように、地獄に落としてくれなかったのか。
 僕はもう一度、周りの人たちのことを思った。お母さんは僕の身代わりになってあんな姿になってしまった。お父さんは他の人の目を僕からそらすためにあんな風に成り果ててしまった。友達は泣いていた。ただ生きたい、まだ死にたくない、まだまだやりたいことがいっぱいあるんだ、そんな目をしていた。苦痛と恐怖、感情が入り混じった悲鳴は今でも僕の耳に残り、ハウリングを続ける。
 僕は生き残ったのではなく、生かされたのかだろうか。その価値など、僕にあるはずもないのに、両親は僕を助けた。それはつまり、僕は生き続けなきゃいけないということだ。背負えということか、ここで散っていった全ての人たちの命の重みを。重圧を背負えば、たちまちに僕の小さな心は潰されてしまう。跡形もなく砕けた僕の欠片はどこへ流れ着くのか。
 地獄だろうか。あの世だろうか。僕の意識のない世界だろうか。
 この壊れた場所で、僕も壊れればいいことだ。勝手に背負わされた荷物を持つ権利など、僕にはないのだ。そうだ、ここで死んでしまえばいい。だって、この世界に僕の居る場所も、僕が生きたいと切に願う理由も、探したって未来永劫見つかることはないのだから。
 お母さん、いつも優しかった。帰りが遅くなっても、僕が怪我をして帰っても、いつも最後には頭を撫でてくれた。
――だから、目の前に転がる硝子の破片を手に取るんだ。
 大丈夫、大丈夫、と泣きじゃくる僕を抱きしめてくれた母はとても温かくて、止まるはずの涙が止まらずあふれ出た。
――破片だから手に刺さるんだね。でも別にいいや。どうせ、今から死ぬんだ
 お父さん、お母さんとは正反対だった。いつも厳しくて、手が飛んできたこともあった。痛くて痛くて、その時は父親という存在を大嫌いになった。
――簡単さ。首にあてるだけ。
 でも、お父さんの背中は大きくて、僕はいつの間にかそれを追っていた。頭の中では、お父さんがあんなに怒ってしまうのは、息子である僕のためにだったからだと、分かっているからだ。
――痛いかな。でも、ここに居続けたら、きっと僕は死ぬのが怖くなってしまう。
 友達、一緒にいるだけで楽しかった。明日のことや、明後日のこと、気がつけば遠い未来のことを、風呂敷に詰め込んだ大量の夢をお互いに見せ合った。
――じゃあ、そろそろ
  これからずっとずっと友達だから。青臭い友情は実っていたんだ、間違いなく。小さかった芽は蕾になっていた、今から必死に花を咲かせようとしたいたのだ

――さようなら
 
 躊躇いを捨て、首に硝子破片を突き入れるように両手で顔の上に持ち上げた。両手からは真紅の液体がぽたぽたと流れ、両腕を伝って、僕の頬にたれる。涙と雨と混ざって滲んだ液体は地面へと垂れて、世界に染み込んでいく。自然と手が震えているのが分かった。でも、ここまで前に進みだしてしまったら、後は落ちていくだけ。再浮上は許されない。このままののど元へ押し込み、この場所からさようならするのだ。目の前に広がる濃厚な闇に包まれて、僕が僕でなくなる世界へと行くんだ。
 硝子は振り下ろした。
 でも、僕は生きていた。
 硝子は突如割り込んだ謎の手によって止まっていた。手は硝子が突き刺さりながらも、僕がそれ以上動かせないように、硝子を強く握りしめた。硝子と手の間からじわりじわりと血が溢れてくる。
「は、離して!」
 僕は反射的に叫んだ。硝子をいくら揺さぶっても、手はそれを離さない。抑圧に耐えていた心のダムが決壊していく。一度死から逃れたことで、覚悟は薄れ、未練が生まれてしまった。
「もう、もう、ここには、お父さんも、お母さんも、友達も!」
 いっそう強く硝子を握ると、痛みが全身に電気を通したように走る。雨ではなくて、血でもなくて、目からとめどなく涙が溢れてしまう。涙はなぜか熱く、頬が焼け付くような感覚に、生の証を感じ取ってしまう。
 僕はもう、死ねない。
「誰もいないのに!」
 既に立つことも出来なくなって、硝子から手を離して地面へと膝をついた。 ぬかった大地がボロ布に染みを作っていく。咽び泣く僕に、誰かが僕の背中に覆いかぶさるように手を伸ばした。
「……冷たい」
 冷たいはずなのに、誰かが僕を抱きしめてくれた。
 それだけで、僕の崩壊した心は少しだけ、温まったのだ。
 
 

 それからのことを僕はよく覚えていない。ただ、いつのまにか手を引かれ歩いていた。僕より遥かに大きいその人の顔を見ることは出来ず、視界に写るのは青い空模様だった。
 長らく何の会話もなく、今更のように痛み出した硝子で作った傷がじくじくと、神経を伝わって襲ってくる。それにただ耐えながら、僕はとある場所へと連れて行かれた。荒れ果てた僕の住んでいた市街を抜け、隣町より遠い場所に、白地の巨大なテントが姿を見せた。入り口には絵の描かれた看板が飾られており、青で縁取った文字が独特な書体で描かれていた。
 手を握った人がしゃがみこみ、僕の方を向いた。口を開くものの、声がまったく聞こえなかったが、一緒にやっている身振り手振りで、言っていることが分かった。僕は大人しく頷き、そこに座り込んだ。一瞬だけ笑みを浮かべると、その人は入り口へは入らず、裏手へと回っていってしまった。
 二、三分もすると、二つの足音が聞こえた。僕がその方向へ振り返ると、もう笑ってはいないその人と、笑みを絶やさない小柄な女の人だった。
「君、ちょっといいかな」
「はい」
 女の人に連れられて小さな個室へと入るが、僕を引っ張ってきた人は何処かへ行ってしまっていた。女の人は大きな古い木箱を開け、中から何かを取り出していた。取り出された物は僕へと投げられ、両手の上にどんどんと積み重なっていく。
「それじゃあれだから、それに着替えてみて。私は外で待ってるから」
 女の人はそうとだけ言うと、すぐに外へと出て行ってしまう。一人ぽつんと取り残された僕は呆気に取られながらも、渡された服を着ていく。サイズが合っているとはいえず、やたらとぶかぶかだった。
「出来ました」
 僕がそう声を掛けると、女の人は僕の全身を見て少し苦笑した。
「うーん、大きかったか。ま、いいや、それじゃこっちにおいで」
 すぐ近くにあった個室に案内されると、木製の作業テーブルや、椅子など置かれていた。空いているスペースには本棚が置かれ、薄汚れたようなカバーが目立っていた。僕は椅子に座るように促され、女の人と向き合うような形になった。女の人がテーブルの上から湯気の立っている何かを二つ手に取って、一つを僕に渡した。茶色のコップから黒い液体が鼻の奥にまで届きそうな香りを放っていた。
「ブラックは飲める?」
「はい」
「しかし、アイゼンも用意がいいこと」
「アイゼン?」
「君をここに連れてきた大男さ」
 コーヒーを一啜りすると、冷め切っていた体の芯にぽっと火がつく。
「さて、悪いんだけども、君はどうしてXXに連れてなんかこられたんだい?」
「……」
「言えないようなら言わなくてもいいわよ。悪いようになんかしないから」
 女の人の声は何処までも優しく、強制する様子はひとつもなかった。だから、僕はありのまま喋ろうとした。でも、いざ口を開くと、あの時の光景がすぐにフラッシュバックしてくる。頭に激しい痛みが走り、先ほど飲んだばかりのコーヒーが胃から駆け上ってくる。僕は口を抑えて、それに必死に耐えた。目の前には人がいるのにも関わらず、僕は自分のことに必死だった。湧き上がる吐き気と、激痛を我慢するので精一杯である。口にすっぱいような感覚だけが取り残される。
「……君が話してくれるまで私たちは待つから、ね。無理はほんとにしなくていい」
 抑えていることしか出来なった何かがじょじょに引いていく。僕はもう涙目になっていて、ただ、その人に謝った。「ごめんなさい」
 呻くように謝り続け、もう何も言えなくなって黙ることしか出来なくなった。女の人はそっと僕の頭に手をあてて、優しく髪を撫でていく。
「今は少し寝た方がいいでしょ。きっとあなたも歩き疲れているし」
 女の人がそういうと、部屋のドアが自然と開いた。僕が振り返ると、そのにはアイゼンと呼ばれた人が立っていて、女の人を見ると頭を下げた。
「ほら、用意も完璧だってさ。明日またここにおいで。そしたら名前を聞かせてね」
 僕に用意されていたのはハンモックと暖かい毛布だった。中に入って目を閉じると、今まで隠れていた睡魔が唐突に現れ、脳を侵食していく。一度大きく深呼吸して、僕はすぐに深い眠りへと落ちていった。



「ねぇ」
 誰かが僕を呼んだ。
「どうして君だけ生きてるの?」



 友達がそう確かに言った。
 夢の中で作り上げた偽者でも、僕はそれを頭の中から追い出そうと、体を無理やり起こす。息が自然と荒れて、頬を冷や汗が伝う。途中で汗以外の物が混ざりこんでいたのは間違いじゃない。視界は霞んで、胸の奥の方から何かがこみ上げてくる。昨日と同じ吐き気のようであり、凶器で体の内をえぐられているような感じだった。
 ふと、額から何かが落っこちたのを見つけた、それを視線で追う。湿ったタオルがいつのまにか乗せられていたらしく、指で摘んでみるとまだひんやりとしていた。
 ハンモックから降りて、外へ出ると、もう日は高く昇っていた。時刻で言えば丁度お昼の頃だろう。あちらこちらに目を配っていると、足音が近づいてきた。特に何も考えずに音の方へ顔を向けると、アイゼンさんが巨大な木のバケツを運んでいた。時折、淵から水が零れ、地面に点々と跡を残していた。
 アイゼンさんは僕に気づくと、自分の額に指を指し示して何かを言う。先ほどのタオルはアイゼンさんがわざわざやってくれていたものらしい。バケツを見る限り、また新しいのに変えてくれるつもりだったのかもしれない。
「ありがとうございます」
 僕が頭を下げると、アイゼンさんは何も言わず踵を返し、離れた所で水を捨て始める。やはり。あの水はタオルをまた濡らすための物だったようだ。なんであの人は僕にここまでしてくれるんだろう。頭を捻りながら、僕はあの女の人の所へと足を運ぶことにした。ここにいつまでもいても、僕自身が何をしていいか分からないし、ただ暇を持て余しているなら、昨日のことが蘇ってきてしまいそうだからだ。
 ドアをノックし、女の人の部屋に入ると、その人は作業用テーブルに顔を突っ伏していた。
「あの……」
「ほえ……あ、ね、寝てないよ!」
 口元から涎を垂らし、額が少し赤くなった状態では何の説得力もなかった。何を言えばいいのか困っていると、女の人が僕だと気づき、口元を服の袖でぬぐった。でも、額はやはり赤いままだ。
「あ、君、か。いやー、よかったよかった。また部下に怒鳴られる所だったよ」
「……」
「今のは見なかったことにしといて、ね?」
 僕がぽかんとしていると、女の人は一度咳払いをしてから、昨日と同じように椅子に座るように言った。
「さて、と、どうだい? 少しは元気になったかな?」
「はい」
「そっか。じゃあ、君の名前を教えてくれるかな?」
「クロルです。ヒーラ・クロル」
「クロル、ね。私はアーリア。私たちは一種の芸名としてこれを使ってるから、名前はこれだけ」
「芸名?」
「そう、芸名。今は此処でやってるけど、時期が来れば別の場所にも行く、サーカスよ。私がその団長をしているわ。アイゼンは団員ね。もちろん他にも人はいっぱいいるわ」
 サーカスと言えば見世物ということくらしか思い浮かばない。危ない綱綿りをしたり、どうやって飼いならしたのか分からない猛獣も操ったりなど、全部他人から話を聞いたくらいだった。
「それで、ものは相談なんだけど、アイゼン君、此処で働いてみない?」
「え?」
「まぁいろんな説明は省くとして、此処で働いてくれれば衣食住は確保できるし、自由時間だって当然出来る。ちゃんと給料も出す」
 AAさんは間を空けてから話しを再開する。
「ただ、アイゼン君はまだ働くような年齢じゃない。これは私が勝手に言っているだけだから聞き流してくれてもかまわない。急には答えられないかもしれないけどね」
 僕は少しだけ考えた。ここにいていい理由など、僕にはない。でも、ここにいられなかったら、僕は何処に行けばいい?
 誰かに助けてもらって、また助けてもらうのか。
 そこまでして、僕は生きながらえたいのか。
 そこまでして、僕に生きる価値なんかあるのか。
 一つの不安な思いは大きくなって、また負の感情を呼び起こし、気がつけばループし、どんどん深みへとはまっていく。
 アーリアさんはそれに気づいたのか、僕に一通の手紙を取り出す。
「アイゼンからの手紙よ。彼、喋れないから」
 アイゼンさんが言っているのは聞き取れなかったのではなく、単に喋れなかったのだ。僕は手紙を受け取り、アーリアさんを見た。アーリアさんは何も言わずに、ただ僕を見ていた。その目は、君の好きにしなさい、と言っていた。
 僕はその手紙を開けた。



 君の名前を私は知らない。私はアイゼンという。団長からもう聞いただろうが、此処はサーカスだ。
 私は買い物のようで、君の街へと出かけた。でもそこには、街はもうなく、せっかく助かった命を無碍にしようとしている少年を見つけたのだ。そう、君のことだ。
 おそらく、この手紙を読んでいる最中も、君の胸の中には絶望しかないと思う。辛くて、もしかしたら寝ることさえ叶わないくらい、うなされるかもしれない。
 だが、君はそこに生き残った。だったら、生きる価値がある。自分の命に価値がないと、思ってはいけない。
 君は何様だと思うかもしれない。いろいろつまることもあるだろう。でも、その前に一つ私の話を聞いてほしい。
 もしかしたら君は感づいているかもしれないが、私は言葉を喋ることが出来ない。これは病気ではなく、君と同じように、私も幼い頃、街で喉を潰されてしまった。気がつけば周りには誰もいない、そんな状況だった。
 それから私はこのサーカスに拾われ、仕事をするようになった。何処にも行く場所などなかったからね。もちろん、それからも苦渋は続いた。ふとした拍子に吐き気を催すし、頭も痛くなる。知り合いの顔が浮かんで四六時中消えない日もあった。それでも私はこうやって生きている。
 せっかくもらった命を、誰かの笑顔に変えられたら、そう思ったからだ。もちろん、こんな考えにたどり着くのには膨大な時間がかかってしまった。でも、今そう考えている自分がいるのだ。
 だから、君にも生きてほしい。私の非常に勝手な振る舞いだが、私はあの時、昔の自分を見てしまった気がしたのだ。私もあの時、助けてもらったのだ。だから、今度は私が君を助けたかった。
 許してくれとは言わない。ただ、君は望むのであれば、その考えにたどり着くのを手伝ってあげたい。そして、今の君のよりどころになる場所を上げたい。君がまた笑顔になってくれる日を、いつのか戻してあげたいのだ。君にはその権利がある。幸せになる権利もだ。大丈夫、君は何も、悪いことをしていない。
 長々と同じような文章を書いたかもしれないが、これが今私が君に伝えたいことだ。
 次に君に会うときは、君が私と同じ仲間になっていることを祈って。



 気がつけば、涙がぼろぼろ零れた。
 僕は別に、罪を犯したわけではなかったのか。
 生きていて、いいんだ。
 生きて、生きている間に出来ることをするべきなんだ。
「アーリアさん」
 僕はここで生きながらえることを決めた。
 しばらくは苦しいだろう。これを所詮幻想だと、思うこともあるだろう。今は流されているだけかもしれない。
 それでも、それでも、今の気持ちに偽りはない。
 いつの日にか、ここじゃない場所にいる、
 お母さん
 お父さん
 友だち
 その人たちを笑顔に出来るように。僕はここで笑っているよ、と。
 僕のせいでその人たちが泣いてしまわぬように。
 僕は”道化”になる。
「僕、このサーカスで働きます」



 やぁ、どうだった?
 今日は僕たちのサーカスを楽しんでくれたかい?
 え? どうして僕が道化師をやっているかだって?
 それは秘密のことだから、僕に質問しちゃいけないよ
 それよりも、久しぶりに笑顔になれたかな?
 もし笑うことを忘れてしまったらまたおいで
 心の底から笑って元気になれるような大切な場所で
 君をずっと待っているから

 

お題「データ」

2009-04-19 | 23:34

お題「データ」



 データを集めるという行為は、我々人間にとっては有意義となることが多い。未だ不確かなことでも、多々のさんプルを統計することで、実質の答えを算出することが可能だからである。
 例えばとある人体実験の統計を取るとしよう。この時にもっとも重要になるのは、何人が生き残り、何人が死に絶えたか、だ。個人の感情はもちろんのこと、人権など度外視した上での話しだ。これにより、どの人体実験だと人がまだ息をしていられる可能性が高いのか、が判断できる。
 そういったデータで溢れる世界になってしまったここでは、ある開発が行われていた。とある生命体に対する対抗手段として政府が着手した人間用強化装備の開発だ。
「これでもう十四人目……やっぱり無茶じゃない?」
 死者は述べ百人を超えているが、彼女はそう言葉を漏らした。これは装備実践の二次訓練である。つまり、残りの八十六人は、装備実験の最中に発狂して死んでしまったのだ。
 彼女がいるのはモニターによって埋め尽くされた小さな一室で、装備に身をつつんだまま死んでいる実験体が倒れていた。しかし、ここで実験を中止すれば、政府も黙ってはいないだろう。そもそもこれがなければあの生命体から身を守る手段がないとの話だが、この実験で出た死者の方が多いではないか。こんな非人道的としかいえない実験をしたいがために、彼女はこの会社に入ったのではない。それを思うと、ただ歯がゆくてしょうがなかった。
「また……失敗ですか?」
 モニタールームのドアを足で開けながら入ってくる大人しそうな青年が、彼女の顔を察して言う。その手には二つのマグカップがあり、両方とも湯気を出していた。
「ええ、残念だけど」
「あんまり気をつめすぎないでくださいね」
「ありがと」
 彼女は青年からカップを受け取り口をつけて、またモニターを見る。実験体の回収部隊がいそいそと動き回り、すぐにモニターの外へと運び出してしまう。彼女がため息をつく様子を見て、青年はそれを心配そうに眺めていた。その視線に気づいた彼女は、力なく笑う。
「大丈夫よ、そんなに心配しなくても」
「でも……」
「男らしくないわよ? そんなへにゃへにゃしてると」
「……すいません」
 彼女が軽く言った冗談でも、青年はまじめに返していた。
 青年がモニタールームを出ると、彼女もその後をついて出てきた。彼女にも青年にもこれからやることがあった。実験体が何故死んでしまったのか。その原因は何だったのか。そのデータを取るために、今死んでいた実験体の装備をはがし、検証を行うのだ。
 実験場につくと、装備を綺麗に取り外され、台の上に実験体が寝かされていた。青年はクリップボードに挟んだ紙と実験体の状態を比べ、時にはその体にも触れて、データの採取を行っていく。ある程度のデータがとり終わったところで、青年はため息をつく。
「身体に異常なし……やはり原因はブラックボックス部分かと」
「……じゃあ、どうしようもないじゃない」
「でも、政府のお達しでは人体に有害なモノではない、と」
「そんなのこれを見たら嘘だってわかるじゃない!」
 彼女は覚えた憤りをそのまま青年に向けて言い放つ。しかし、自分のしてしまった身勝手なことに、彼女はすぐに気づく。彼は言われたことをやっているだけなのだ。別に彼が悪いわけじゃない。
「……ごめんなさい」
「いいんですよ。お気持ちお察しします」
 青年は軽く微笑むと、作業を再開した。だが、それと同時に警報が鳴り響く。緊急のアナウンスがスピーカーから流れ始める。
”侵入者が入りました。職員はただちに捕獲を行い、強制退去させよ。繰り返す……”
「ここに侵入者?」
「まさか……」
「そんなはずがないわ。だって、このことはまだ機密事項のはずよ……あなたは作業を続けてて!」
 彼女はそう言うと部屋を飛び出していく。青年は追いかけようと思ったが、データ採取も今行わなくて意味をなくしてしまうことも分かっている。青年が諦め、再びデータを取り出そうとした時、彼女の悲鳴が聞こえた。
 青年はクリップボードを投げ捨て、ドアを開けた。通路にはもう彼女の姿は見えず、侵入者の姿もそこにはない。青年には分かった。彼女は侵入者に捕らえられてしまった。そして、早くしなければ、彼女が喰われてしまうことも。
 だが、生身の青年ではどうしようもない。彼が顔を伏せた。
 そこには何かがあった。
 銀色の硬い、異質な物体が置かれていた。
 青年は何も考えずにそれに手を伸ばした。


 侵入者は彼女の腹を蹴り飛ばし、壁へとたたきつける。彼女に抵抗する術もなく、ただひたすらになぶられ続けていた。
 侵入者の右手、指から手の甲まで真っ白に変色し、小さな目に見えない黒い穴がいくつも空いていた。侵入者が何かを殴ると、穴から緑色の液体が飛び散る。液体は壁を溶かしながらすぐに蒸発していく。しかし、それ以外は見た目何も変わらない人間だった。
「感染者……」
 彼女は息絶え絶えに漏らす。
「どうして……ここに」
 人間に耐え切ることが出来なかった衝撃に、彼女の意識がぷつりと途切れた。侵入者の口元がさながら悪魔のように歪むと、何処から出てくるのか分からないような声で笑いながら、彼女へと近づく。
 右手をかざし、彼女ののど元を一気に掻き切ろうと、それを振り下ろした。抵抗など出来ない彼女には避ける手段もなく、首を切り裂かれ――なかった。
 突如侵入者の体に穴が開く。その数は秒単位で増え、体は穴だらけになる。侵入者がゆっくりと振り返ると、強化装備をつけた青年がハンドガンをかまえて立っており、銃口からは硝煙が昇っていた。
「目標補足。作戦遂行完了」
 青年の言葉と裏腹に、侵入者は青年に向かって走り出す。体に空いたはずの穴は瞬時に再生し、無数に空いていた穴は全て消えていた。しかし、青年は淡々としゃべり続けた。
「これより本作戦を終了し、人命救助を行う。救護班を要請」
 侵入者は青年に殴りかかろうとするが、拳が顔にたどり着くまでに、体に変化が起こった。
「尚、今回用いたハンドガンは非常に有用な模様。次回も期待されたし」
 空いた穴の部分が小さな爆発を起こしながら、侵入者の体を破壊していく。小爆発は規模をまし、青年が侵入者の横を通り過ぎると、体全てを爆砕するまでになった。侵入者の体は粉々になり、あたり一面は血にまみれていたが、その中に、ひとつだけ黄色い何かが存在した。それは跳ね回るように動き、血の海を漂っていた。青年はすぐに振り返ると、それに向かってハンドガンを撃ち込む。
「感染源の駆除も完了。この装備の着用は、十分が限度、の、模様」
 青年が彼女を抱きかかえると、その場で動きを停止する。装備は自動的に解除され、パーツがぼろぼろと崩れ落ちていく。その時既に青年の意識はなかったが、抱きかかえた彼女を落とすことはなかった。



「あれ? ここは?」
「病院ベッドの上よ」
「へ?」
 青年が頭を捻りながら声の方へ顔を向けた。隣には同じようにベッドがあり、彼女はそこで同じように寝たいた。
「まさかあれを着こなしちゃうとはねぇ」
「はは、あの時は必死で」
「無茶しないでよね、あれが壊れちゃうじゃない」
「……そっちですか」
「冗談よ。ま、ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」
「いえ、そんな」
「謙遜しなくていいわ。でも、あなた、これからが大変よ?」
「……でしょうね」
 二人はこれからの惨劇に参加することが確定した。
 運命からはもう逃げられない。
 でも、その運命の二手、三手先が分かれば、ベクトルは変えられるかもしれない。
 それでも青年は、あれをまた着るだろう。
 守りたいが人がいる限り。

ここがどこかというと

2009-04-17 | 14:58

大学内です(ぁ
だって、暇なんですもん

こんにちは、シロです

内輪ネタでいうと、月曜日のフルコマを避け、金曜の二と五を取り、三、四を勉強タイムにとっておいてあります。
ただ、プログラミングがうまくいかずいらいらして絶賛現実逃避中(それでも三つはがんばって作った)

ただでさえアホなんだからがんばらないとね(’

最近SSばっかですが、ちょっと長いのも考えています。次回更新予定お題「データ」の世界のお話です。
イメージとしてAGITOのG3が出てくる(ぁ
でも主人公じゃないです、脇役です
主人公は黒いギルスかよ、みたいな。(実際は首から下右半身のみ
そうです、そういうなんかモノが書きたいんですよ
設定的には練り段階なのであれですが、血だらけ必須の世界になりそうです。
だって敵の餌が人間で、主人公の餌が敵ですからね(ぁ

後、その後のお題に「道化」というお題があります
これは神が俺に告げている
三日月で書け、と
本格的にロストした三日月小説挽回のチャンス、だと(途中まで消えたのが全部消えました。けたけた
三日月をやたらかっこよく書いてやろう。そんな予定


どうでもいいですが、詩データを誰か返してくれないでしょうか(ぁ
アップしていないのが何個かあったんですけど
けたけた
帰しやがれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

げふんげふん、ちょっと騒ぎすぎましたね
手元にあるのはちょっとしかないですが、ちょっとずつアップしていこうかな?
とりあえず、こないだ作った奏の替え歌で「響」は此方→http://alivealive.web.fc2.com/hibiki.htm

後はオリジナルでとある人のイメージソング→http://alivealive.web.fc2.com/line.html(これはアプしたことあったっけ?)

詩に関してはリクエスト絶賛募集中(ぁ

とはいっても、只今製作中であるOP「超変態戦士A○○○○○○N」(プライバシー保護のため伏字。でもまず最初でカオス(ぁ)とED「それでも僕は~2009ver~(嘘)」(いや、大嘘。まだ決めてないだけ


今書けるのはこれくらいかな?

頭の中でイメージしたモノが映像化できるようなソフトが欲しいこのごろ(ねぇよ

それではまたん
ノシ

お題「伝えきれないよ」

2009-04-17 | 01:10

今回十個目のお題
なのでちょっと長めです(ほんとにちょっと

では、どうぞ。

[お題「伝えきれないよ」]...Read more

死に行く者への手向けは花ではなくデータを

2009-04-13 | 23:28

お題SSが二つ死にました


もういやじゃあああああああああああ、あのPCぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

今新しくなりましたが、メモリースティックに写すとデータを消すPCって何だろう
コピーではなく癖で切り取りでやったのがこの始末


ふははははははははは

しかも、二つともそこそこ書けてたヤツ
なに、死ぬの?

もういじけて勉強して寝ます
ノシ

お題「曇り時々晴れ」

2009-04-13 | 23:26

お題「曇り時々晴れ」


「おーい、朝だぞー」
「おーい、朝だぞー」
 早朝から元気なステレオの目覚ましが俺を起こしてくれているらしい。祝日はゆっくり寝ていたいのだが、これをこのまま無視すると、両耳を引きちぎらんばかりにひっぱられるので、目を覚ましておかないと痛い目にあってしまうのである。
「分かった、起きるから起きるから、朝からステレオやめ」
「えー」
「えー」
 流石双子の弟、文句をいう時も一緒である。言うだけ無駄だったな、と思いながら布団を蹴飛ばし、朝日を拝むべくカーテンを開ける。見事なまでの濃厚な灰色をした雲が、さわやかな太陽の光をシャットダウンしてくれていた。朝からついていないなと頭をかきながら今日の予定を思い出す。そこで二つの視線を感じたので振り返ると、訴える瞳の弟が二人いた。
「あー、あのだなー」
「サッカーはー」
「サッカーはー」
 言い訳を考える前に弟たちからの容赦のない訴えが突き刺さる。いや、本当に連れて行ってやるつもりだったのだ。ただ、天気予報も何も確認していなかったせいで、昨日寝る前に、「明日はへとへとになるまでサッカーだからな」、などと言って、弟たちに多大な期待をさせていたのだ。
 さて、どうするか、とりあえず朝飯を食べてからにしよう。俺が居間に向かうと、母親が朝食の用意をしており、それをつまみ食いしようと企む友人がいた。そう、親父ではなく、友人がいる。二度見してもまだいるので、三度見てから、そいつの頭を叩いてやる。
「な、痛いよ!」
「痛いよ、じゃねぇ! 何してんだお前は!」
「おいしい朝ご飯を頂きに」
「帰れ。家の朝食は予約制だ」
「あらあら、朝から仲のいいこと」
 つかぬ事をお聞きしますが、あなたはこの現実に突っ込みを覚えないのだろうか? 家族じゃない人間、しかも俺の友達が、許可なしにあがり込んでいる事実に、どうして誰も異議を唱えないんだろうか。そうこうしている間に、テーブル上には友人の分も含めた朝食が並び、俺一人が首を傾げながら、みんな揃って「いただきます」
 海苔を加えつつ朝のニュースを見ているが、なかなか今日の天気予報が出てこない。ただ、午後からずっと雨だなんて予報だと、食欲が皆無になってしまう可能性がある。テレビの音声に気を配りながら、飯を急いでかき込んでいく。
「朝からよく食べるね」
「朝からよく来たな」
「いいじゃないか。君のお母さん目当てなんだし」
「あらやだ、照れちゃうわ」
「なんで乗るんだ! 否定しろ! 天国の親父に詫びやがれ!」
 きっと今ごろあの世で泣いてるんだろうな、あの親父はと嘆き、友達のわき腹に肘を叩き込む。
「く……くりーん……ひっと……」
「体力零ゲームオーバー、帰れ」
 まぁ、確かに家の母親は若く見られる傾向があるし、他のところの母親と比べたらそれこそ天と地の差があるんじゃないかっていう顔をしている。それでいて天然な所があるため、近所の若者の心をがっちりキャッチして離さないのである。この友人もその類の中の一匹である。
「もー、そんなにママを取られたくないのー?」
 によによしながら母親が此方を見ている。嫌いではないが、たまに此方を子供扱いすることが多いので、腹を立てることもある。こういった時の最善策は無視することなのだが、友人が復活して母親の手をちゃっかり取りそうな気がする。
「そうだよー」
「そうだよー」
 どうするか悩んでいるところに双子のナイスフォローが入る。偉い、偉いぞと思いながら、復活しかけている友人に拳を叩き込んで、もう一度寝ておいてもらう。しかし、ダメージを食らうと逆に体力が回復する仕様なのか、むくりと起き上がる。
「痛いなぁ」
「……M?」
「どMさ!」
「次大きな声で退場」
「はーい」
 もう追い出すのは諦めることにして、さっさと朝飯を食ってしまうことにしよう。いい加減学んだのか、友人も大人しく食べて始めた。ただし、これは一日のみ有効で、翌日はすっかり忘れている。そういう時は、背中をちょっと叩いてあげるのだ。いつかこいつ専用のハリセンを用意してもいいかもしれない。
 そんなこんなで朝食は無事なく終了した。

「サッカー」
「サッカー」
 洗面台で歯を磨いていると、弟たちが声を揃えて再び訴えモードに入る。分かる、連れてってはやりたいんだが、いかんせんこの天気だ。遊んでいる途中に雨が降ってきて、テンションが最低値に達してしまうに違いない。他にこいつらの欲求を満たしてやりながら、かつ、雨に濡れず、そして俺も楽しい。そんないい場所はないだろうか。とりあえず列挙される案の中にある、自宅と友人宅を却下しておく。自宅はまず弟たちが納得しないだろし、友人宅の場合、友人の姉貴にもふもふされる可能性がある。童顔なのが可愛いなどと、一種の凶器を振り回すものだから出来れば接触は避けたいのだ。
「カラオケは?」
 弟たちは首を振る。どうやらお気に召さないようだ。
「ボーリング……は……」
 まず近くにないので廃案にする。
「映画」
 昨日借りてきたDVDを見たというタイミングの悪さに見舞われる。
「買い物」
 別に何も欲しくないと一蹴される。
「バッティングセンター」
 サッカー以外は嫌だとの返答をもらう。こうなるともうどうしようもなかった。
 市営の体育館でやるのも一つの手だが、自宅から行くには遠すぎる。顔を洗い、目が覚めた所で、もう一度テレビをチェックしてみるが、やはり天気予報はやっていない。だが、これ以上時間を潰すのももったいない。どうしたものか、と考えていると、ふいにチャイムが鳴った。走る物凄く嫌な予感は、俺に逃げろと言うが、自宅で、周囲に弟がいる状況下では無理なことだ。母親がドアを開けると、間延びした声が響く。「お邪魔しまーす」
 来てしまった、来てしまったよ、友人の姉貴が。
「ふっふー、みっけー」
 というわけでこねくり回されることになり、弟たちは助けてくれない。友人は見てみぬ振りでもしてニヤニヤしてるのかと思ったら、俺の妨害がない間に母親と交流を始めやがった。あいつ後で許さん。余談だが、マザコンではない、それは間違いなく。
「離してください、離せ」
 なんで嫌だと思っていたのにこの人はわざわざ来たんだろうか。天気といい、友人といい、今日は厄日なのだろうか。カレンダーに目をやると、見事に“大安”の文字が書いてあるが、見間違いと信じたい。
 五分近く拘束されていたがどうにか抜け出し、友人の姉貴をテーブルに座らせた。こうしないと話にもならないからだ。
「で? あいつをようやく引き取りに?」
「それもある」
「もう一つは?」
「遊びに」
「帰ってください」
「嫌」
 まさに友人の姉貴、理解しがたい自己中心的考えをお持ちのようだ。俺がため息をつくと、友人の姉貴が何かを取り出す。俺が困っているということを知っていたかのように。
「これはなんでしょう」
 そうやって掲げられたのは一束の鍵だった。三種類の鍵と、実に可愛げのないマスコットキーホルダーがついている。
「鍵?」
「そう、車の鍵です。今日出かけるんだよね?」
「……誰にそれを?」
「弟から」
 もう一度ため息をついてから、友人の首をゆっくりと締め上げる作業に移った。ロープロープと五月蝿いが、知ったことではない。余計なことをべらべらと喋りよって。
 仕方がないので、俺たち兄弟は友人の姉貴の車に乗せてもらい、市営の体育館に行くことにしたのだ。



 市営の体育館の設備はよく、弟たちも十分に満足したようで、二人仲良くペットボトルの飲み物を飲んでいた。友人とその姉貴は体力不足なのか、床に座り込んでいた。
「情けないな」
「誰もが体力あると思うな!」
「女の子はか弱いのよ!」
 二人分も突っ込むのは面倒なので相手にしないことにして、俺も自分の分の飲み物を口につける。半分くらい飲んだ所で、それを誰かに奪い去られる。友人だろうなぁ、今度は何で痛めつけてやろうか、と思いながら振り返る。しかし、友人はペットボトルを持っていない。ただし、笑っていやがった。まさかと思い、友人の姉貴を見ると、空のペットボトルを持っていた。しかも、間違いなく俺が買ったヤツで、今飲んでいたものだ。
「間接~」
「次やったら縁を切る」
「じゃあ、次は間接じゃない方法で」
「お願いですから、まじで帰りやがってください」
「歩いて帰る?」
「……卑怯だ」
 敵のリーサルウェポンにより、俺という兵士はあっさり死亡することになった。体育館に設置されたシャワーを浴びて、外へ出る。
「あれー」
「あれー」
 弟たちが声を上げる。
「青空―」
「青空―」
「晴れたね」
「晴れてるみたい」
 ついでに友人たちも声を上げる。本日三度目のため息をついておく。
 曇り時々晴れ。
 気付くのが遅すぎた、そんな日の話だった。
 

 
――後日、友人にはしっかりと四の地固めをかけておいた。また、その姉貴から逃げる受難の日々がまだ続いている。

[お題「曇り時々晴れ」]...Read more

お題「愛の言葉」

2009-04-13 | 23:23

お題「愛の言葉」


「あなたのことが好きなんです!」
 お決まりの台詞は夕暮れの教室に響く。大きさの違う影は二つしか存在しない。切ない気持ちはしっかりと伝わり、答えはイエス以外の何ものでもない。
 そして、二つの影は一つに重なって――

「それつまんないよね」
「……えー」
 机の向かい側で椅子に座って俺に愚痴ばかりをこぼす女が一匹いた。授業は全て終了し、帰りなさいのチャイムがなっているにも関わらず、俺はここに残っている。
「あのね、今時はもっとこう、気の利いた台詞じゃなきゃオーケーもらえないじゃない!」
「知るかよ……」
 何故俺の告白じゃないのに、まじめにやらなければいけないんだろうか。たまたま同じ図書委員で、作業中に肩がぶつかり、そこで出てきた言葉が、「女の子を傷モノにしたんだから責任取ってよね?」、という信じられない注文だった。
 帰りたい。
「帰りたい」
「思ったこと今言ったでしょ?」
「ええ、勿論。分かってるなら帰して頂きたい」
「あのね! 私が納得しないの!」
「いやいや、何処の姫だよ」
「いいから手伝え!」
 というか俺が思うに、愛の言葉っていうのは、気持ちが優先であり、趣向を凝らした台詞ではないと思うのだが。もちろん、この我まま野郎……じゃなくて、姫、に言って理解してもらえるはずがない。でも、流石に俺もそろそろ帰りたい。外ではカラスがオレンジの空に映えている。
「他に何かないの!」
 そして、考えるのは全て俺に任せっぱなし。いいのを考えろと言ったり、それじゃ納得がいかないと言ったり、もう無視して帰ってもいいだろうか。いや、もしそんなことをしたら、間違いなく次の日から殺意をずっと感じることになる。それはそれでゴメンだ。
「じゃあさぁ、君が欲しいとでもいっとけばいいじゃん」
「それだとプロポーズじゃない」
「……もう、何がいいんだか……というか、誰に告白するんだよ?」
「誰にだっていいでしょ!」
「ほほぅ、言えない相手か……それは、まさか……」
「……」
 思ったより動揺したのに驚きながらも、とりあえずありがちなのを選んで言っおく。「担任の先生だろ!」
「違う!」
「じゃあ、委員長」
「全然タイプじゃない!」
 この学校でかっこいいと女子に人気なのはこの辺りの人選なのだが、一つもかすっていないらしく、何故か怒り始める。おかしいな、なんでじょじょに怒気が増しているんだろうか。やっぱりこういうことを女の子に聞くのはデリカシーがないのか?
 ふと、ここでいい案を思いつく。そうだ、ここでもう一回このやり方で押して、帰れ帰れと言われる状況をつければいいのだ。しかし、ここでわざとらしく言ってはいけない。自然に、そう、愚痴をこぼすように。
「あーもー、じゃー俺とでも言うんですかー」
 よし、勝った。これで帰れる。ようやく家に帰って、飯食って、テレビ見て、風呂入ってー、と妄想だけが先行していた。
「……へ?」
 はい? ちょっと、待って。お願い、ちょっと待って。なんで頬赤らめたのこいつ?
「……ば、ばかぁ!!」
 大声で泣き叫びながら教室から出て行ってしまい、俺一人が取り残される形となってしまった。
 とりあえず放置するわけにもいかないので、後を追うと、何故か廊下でずっこけている女の子がいる。どうやら慌てすぎて足がもつれて転び、起き上がる気力もないらしい。
「おーい、姫―、生きてますかー」
「五月蝿い五月蝿い! 早く帰れ!」
 よし、帰れといわれたから、ようやく帰れる。
 なんて、ここまで来て帰ってしまうほど心を失った人間ではない。
「あーあー、じゃあなんで人に命令口調なんだよ」
 手を伸ばして起こしてやると、座ったまま、涙をずっとぬぐっている。
「あれか、好きな人にはついつい高圧的な態度に出ちゃったってう感じ?」
「黙れ! 喋るな!」
「はいはい。もう喋らないから、ほれ、姫、帰るぞ」
「?」
「いい加減俺は帰りたいの。だから一緒に帰るぞ」
「……」
「速くこないと置いてくぞー」
 俺はそう言ってちょっとゆっくりだが歩き出す。すると、すぐに後ろから走ってくる音がする。そして、腕が誰かにちょっとだけつかまれる。
 とりあえず、冷静になったら後でぼこぼこにされるんだろうなぁ、と思いながら、帰路を辿るのであった。


――後日、俺には彼女が出来たが、でかいタンコブも同時に出来ることになった。

お題「タイム・リミット」

2009-04-13 | 23:22

お題「タイム・リミット」


――残り二秒
 三つの視線が一つの対象を凝視した。各自戦闘態勢がこの時点で出来ており、他は全て敵と化している。しかし、ここで視線をずらしてはいけない。一瞬の隙に他がその間に滑り込み、己が欲しているものを完膚なきまで飲み干すのだ。だから努々油断してはならない。必要なのは自分の意思を貫き、タイミングを逃さぬ瞬発力、そして神に魅入られた運のみだ。実力だけはカバーしきれない要素を喰らうことが可能ならば、栄光を勝ち取ることが出来るのだ。三つの視線はぴくりとも動かず、時を待つ。速ければ失敗に終わるが、遅ければ対象は既に世界から姿を消すことになる。一つ一つの鼓動が動けと急かすが、誘惑に負けない頑丈な心が抑制をかけ、荒ぶる気持ちは先行を止めている。三人で対象を分割するという精神はいらない。独占欲が強すぎるわけではない、飢えがあるだけだ。自分に足らないと思われる大切な物を手に入れるための、飢え。満たされていれば、このような神経をすり減らしていく状況などいらない。むしろ人間は満たされていれば、飢えている人間にその対象を譲ることもしばしばある。だが、現在生存している三つは、非常に飢えているのだ。他人になど甘い心は檻にしっかりと閉じ込められ、溢れる欲望が全てを支配していた。
――残り一秒
 刹那、一つが動いた。完璧なるタイミングで対象の喉元を狩り獲ろうと、寸分の狂いもなく牙を向いた。しかし、テンプレート的タイミングは、逆手に取られる可能性があり、それは実行されてしまう。牙は途中で阻まれ、動きを停止する。残り二つ内の一つが同じ牙を向け、ぶつかり合う。二つは互いを睨みあいながら、もう一つの動きに神経を集中していた。もう一つは絶好のチャンスであることに変わらないが、動けば間違いなく道を阻まれるだろう。そしてその間に対象が絶滅してしまう可能性も否めないのだ。ならどうすればいい、一つは考える。そう、狙うはおこぼれだ。協力体制を組めないこともないが、やはりこの飢え、分割では収まらない。二つがいがみ合い、最終局面までたどり着き、此方への注意が逸れた瞬間を狙って牙を向くのだ。一番最初に動いた一つはそれを読んでいた。だから、逆手に取ってきた一つと争いながらも、チャンスを待っている一つにずっと注意をしていた。
 だが、逆手を取った一つはそれを待っていた。
 奇襲作戦はここで成功していた。
――残り零・五秒
 最初に動いていた一つの牙が自動的に閉じた。それは、今までお互いにぶつけ合っていた牙が唐突に動いたからだ。もうこの時点で最初に動いた一つは戦えない。牙はもう戦闘態勢に移行する時間を与えられてはいない。一つは悔やむ。何故その考えが行き届かなかったのか、本当だったら自分が対象を捕えていたのに、と。だが、脱落者は何を思っても、所詮は脱落者であり、敗者に他ならない。出来るのは、勝者が狼煙を上げて此方に見せびらかすのを涙を流し、指を加えてみていることしか出来ないのだ。おこぼれを狙う一つも、急にうごいた一つには反応できなかった。急いで自前の牙を見せようとするが、間に合うはずも無い。距離がありすぎているし、急に動いた一つは既に動いている。加速を行っていない一つには対象を狙う資格はなく、絶望だけが与えられる。
――残り零・零一秒
 獲物は首を撥ねられる。一つは極上の笑みを浮かべながら、勝利の雄たけびを上げる。

――フィナーレ
「最後の唐揚げもーらい」

お題「ダンデライオン」

2009-04-13 | 23:22

お題「ダンデライオン」


 時折犬の散歩などをしていると、季節を感じさせる花々が咲いていることが多々ある。夏には向日葵が太陽へと手を伸ばして努力している姿を見ることが出来たし、秋にはイチョウの木が道を一色に染め上げていた。私の足元にさくライオンは、冬に耐えて、春になった今、のびのびとした姿を見せていた。
「ダンデライオンかぁ……たいそうな名前だなぁ」
 幾多もの黄色の花びらがライオンの鬣連想させるのだろうか。私達が小さい頃には、これが成長して、種を飛ばす時期になると、息を吹きかけ、空に待っていくダンデライオンの子供達をみてはしゃいだものだった。
 ただ、そんな思いに耽る主のことなど知らず、我が家のお犬様はタンポポを綺麗に踏んづけていくのだ。
「ダメだぞー、そういうことしちゃー」
 言って聞くわけがないのだが、犬を座らせて頭をわしわし撫でつつ諭してみるのだ。もちろん、犬にとってはこれが誉められていると感じる可能性もあるので、私のやっていることは無意味ではなく、害をもたらしていることになるのだ。
「ダメなのは私かー」
 苦笑いを浮かべても、犬はただ尻尾を振るばかりである。いつもお前は元気だなーと、思いながら、私はまた歩き始めるのだ。

 家に帰ると、居間に、私が家を出てくるときにはいなかった妹がいた。恐らく、私は散歩にいっている間に帰ってきたのだろう。
「おかえりー」
「ただいま」
 当たり前のやり取りをしながら、私は洗面所に行って手を洗い、二人分の飲み物を用意してから、居間に戻る。妹は帰ってきてすぐだったらしく、制服を脱いでハンガーにかけているところだった。
「そういやさー」
 妹が飲み物に手をつけながら口を開く。
「ん? なーに?」
「もう春なんだねー。帰り道に蒲公英が咲いてたよ」
「咲いてたね、ダンデライオン」
「なにそれ?」
「蒲公英よ」
「随分と強そうな名前」
「そうね」
 笑いながら私も飲み物に手をつけた。
 流石姉妹といったところか、考えていることはまったく一緒だった。
「そろそろお花見かな?」
「いいねー、お花見。私も行きたいな」
「未成年はお酒飲んじゃダメよ?」
「ケチ!」
 そして、次の春らしさが来るのを、二人一緒に、楽しみに待つのだ。

お題「 「馬鹿だねって言って」 」

2009-04-13 | 23:19

お題「 「馬鹿だねって言って」 」


 おんぼろの安いアパートには窓が六つあり、その一つだけが明かりを透かしていた。正月の大晦日にはみな実家に帰るものである。普通ならば、その一つでされもないはずなのだ。だが、そこに住んでいる人間にも、やむなしの事情という物がある。
「あー……疲れた……」
 住人は買ってきた年越し蕎麦を適当にほっぽると、炬燵にもぐりこんだ。住人の部屋には物が溢れかえり、何処が踏み場か分からないような状態にあった。男は無意識にリモコンを手で探しながら、蕎麦に手をつけようと、邪魔なビニールをはがし始める。手に何かの角が触れたのでそれを引っ張り出してみると、エアコンのリモコンであった。
「残念、ニアピン賞」
 住人は虚しく呟きながら、テレビを見るのを一端諦め、蕎麦に手をつけることにした。一口啜って出てきた感想は、「うん、まずい」
 コンビニで買える蕎麦なんてたかがしれていると思ったのだが、只今の時刻夜の十時三十分。大晦日だし蕎麦屋はもしかしたらやってるかもしれないが、素晴らしいことに田舎にはまず蕎麦屋がない。スーパーでなら年越し用の蕎麦もあるだろうが、まだやっているはずもなく、泣く泣くコンビニ蕎麦にしたのだ。
 ずるずる、と一人しかいないアパートで音が鳴り響く。寂しいなぁ、と住人は思いつつ、山葵を汁に追加する。本当は実家でうまい蕎麦は食えたのにと思うと、余計にこの蕎麦がまずく感じた。
 静かなアパートに一人きり。これはもう暴れるしかないのだろうか、とバイトに無理矢理借り出されたことに嘆いた住人だったが、誰かがドアを叩く音がした。どうやら暴れることも許されないらしい。
「宗教勧誘かな……」
 こんな日にまでわざわざご苦労なことだと思いつつ、住人は律儀に炬燵からはいでる。以前にもこんなことがあり、無視を続けていたのだが、一時間以上ドアを叩きつづけられ、隣の住民から苦情が来たことがあったのだ。諦めてドアを開けるとカタコトの日本語でまくしたてる外国人とご対面することになった。もちろん帰ってもらったが、その日の体力はそこで使い果たした覚えがある。今の疲れた体なら勧誘に引っかかってしまうんじゃないだろうか。住人はため息をつきながらドアを開けた。
「やー、遊びに来たよー」
「……は?」
 そこにいたのは顔が凄く綺麗で、足も長く、スタイルの素晴らしい友達が立っていた。なのでとりあえず、住人はドアを閉めることにした。しかしその刹那、隙間に何かをねじ込まれ、ドアは絶対にしまらなくなる。
「ふふふ、ひどいじゃないか、閉めるなんて」
「黙れストーカー」
「誉め言葉として受け取っておくね」
 無理矢理こじ開けられるドア。友達は勝ち誇った様子で手に持ったビニール袋を住人へと見せつけた。
「実家の蕎麦だけど、一人で食べるの寂しくて。一緒に食べない? 天ぷらも揚げちゃうよ?」
「ぐ……確かにおいしい条件だが……」
「じゃ、さっさと用意するね」
 友達はそう言って住人を許可を得ないまま部屋へと侵入、そして狭い台所でそそくさと用意を始めた。住人が肩を落としながら待つこと数十分、テーブルには茹でたての蕎麦と、サクサクの天ぷらが山盛りになって置かれていた。
「いただきまーす」
「……いただきます」
 住人は横目で友達に注意しながら蕎麦に手をつけた。やはりコンビニの蕎麦とは全然違うと思い、二口三口と進み、気付けば皿だけが残るようになった。
「あー、おいしかった」
「まぁ、確かにうまかった」
 お腹が満たされたことは事実なので、その点には感謝しつつ、箸を下ろした。
「というか、何でお前俺のとこ来たんだよ。実家帰れただろう」
「それは……その……君のことが好きだから……ふふ、馬鹿だねって言ってよ」
 友達がそうやって身を乗り出したので、住人は足でそれを迎撃する。友達は後ろにひっくり返し、もー、と口を尖らせた。
「そうだなこの馬鹿。というかな……というかだな、俺は男に興味はないんだよ! 帰れ!」
「無理を言わないで! もうこの熱いパトスは誰にも止められない!」
「来るな! 来るな変態!」
「最高の言葉をありがとう!」
 住人は後ずさりで逃げようとするが、友達はいち早く体制を立て直し、住人へと飛びつく。友達の力はやたら強く、住人はそれを引き離すことが出来ない。
「離せ! 離してくれぇええええええ!」
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか」
「ふざけんな! 誰がこんなBL展開を望んでるんだ!」
「僕さ!」
 ごずん、と鈍い音がなるくらい、住人は本気で友達の顔面を殴った。おかげで一瞬だが、友達の束縛が弱まる。住人は必死で抜け出し、台所を抜け、踵を潰しながら靴を履き、外へと逃げだす。靴をしっかり履きなおすように立ち止まり、後ろを振り返ると、血走った目で追いかけてくる変態が一人。
「来るなぁああああああ! 家へ帰れぇええええええ!」
「逃げないで! 僕の子猫ちゃん!」
「いやだぁああああああ!!」

お題「津軽海峡冬景色」「おばけなんてうそさ」「さくら」

2009-04-08 | 20:08

お題「津軽海峡冬景色」「おばけなんてうそさ」「さくら」


「ねぇ、お願いがあるの」


 僕はその日、お化けと出会ったんだ。


 全ての始まりは、友達と口論だった。昼休みに、昨日見た心霊番組の話題になった時、実際にお化けがいるか、いないかということでもめ始めたのだ。
「おばけなんてうそさ!」
「いいや、絶対にいる!」
 僕はお化けを信じてはいなかった。足がなかったり、浮いていたり、そんな僕たちと違う見た目を持っているなら、間違いなく誰かがそれを捕まえている。それに、僕はこの目で幽霊をみたことなんてない。だから、いるなんて話を信じることなんて無理な話なのだ。
「じゃあ、こうしよう」
 友達がそう言って提案をしたのは、今日の夜に、実際幽霊が出そうな場所へ行ってみて、本当にいるかだろうか確かめてくる、というものだった。気味が悪くて嫌だ、と言えば、間違いなく弱虫のレッテルを張られてしまう。しょうがなく、その申し出をしぶしぶ了承することにしたのだ。
 学校が終わると、僕と友達はとある場所へと向かった。本日のイベント開催地である病院の下見に来たのだ。しかし、ここは別に潰れている訳でもなく、僕が病気になった時などはここに来るような、誰もが知っている普通の病院である。しかし、友達はわざと声を低くして、僕を脅すように言う。「へへ、知ってるか。あの桜の下にお化けが出るんだと」
 友達が言う桜はまだ咲いておらず、みな蕾のままだった。枝が垂れているのを見ると、枝垂桜らしい。今は特に何も感じないが、多分夜暗くなると、少し不気味に感じる気がする。なんとなくだけど、どこかで見た柳の木が連想されてきてしまうからだ。
「いいな、今日の夜だぞ。約束だぞ」
 したくもない指きりげんまんをして、僕と友達は病院から離れることにした。
 帰り際に病院の屋上を見ると、誰かがそこにいた気がした。よくわからないけど、それは僕に手を振っている気がして、見間違いかと思って目を擦った。
「……?」
「おーい、早くいくぞー」
「あー、うん」
 もう一度見たときには、そこには何もなかった。やはり、僕の見間違いだったのだ。僕は友達の後をすぐに追いかけ、夜に備えて家で少し仮眠を取ることにした。

「……うるさい」
 仮眠を取り始めて一時間後、僕はとある歌声で起こされた。僕の家には、お父さんお母さん、それにおじいちゃんとおばぁちゃんに、お兄ちゃんがいる。当然、こんな時間帯にいるのは、おじいちゃんとおばぁちゃんしかいない。
「ねぇ……何やってるの?」
「カラオケだよ、カラオケ」
「うんうん、ばぁさんは何時も歌が上手だな」
「あらあら、おじいさん、誉めても歌しか出ませんよ」
 人の話などまったく聞く気はないらしく、二人でいちゃいちゃしていた。もう結構な年のはずなのに、二人はいまだに新婚のように仲が良く、喧嘩をしているとこなど見たこともなかった。
 僕が呆れているのも知ったことではないのか、おばぁちゃんが次の曲をもう入れたらしく、画面に漢字が表示される。津軽海峡冬景色と書いて、つがるかいきょうふゆげしき、と読むらしい。僕にはまだ難しいな、と考えながら、寝るのを諦めて、二人の隣にちょこんと座っていることにした。
 おばぁちゃんが歌い終わると、おじいちゃんが拍手して、僕はつられてぱちぱちと手を鳴らす。それからしばらくはそれの繰り返しだった。
 お腹すいたなぁ。
 そんなことを思いながら、流れていく演歌の歌詞を眺めているのだった。
「ねー、おじいちゃん」
「ん? どうした?」
 歌が終わった少しの間に、暇を潰すのもかねて、ちょっとお化けについて聞いてみる。そしたら、おじいちゃんは真顔で、「そりゃあ、いるに決まってるさ」
「何で分かるの?」
「おじいちゃんは昔会ったことがあるからね」
「怖かった?」
「いいや、怖くなんかなかったよ。おじいちゃんがあったお化けはいいお化けだったからね」
「へぇー……」
 まだいろいろと聞こうとしたけど、おばぁちゃんの歌が始まってしまい、おじいちゃんはまたテレビ画面を見始めてしまった。孫の話くらいしっかり聞いてくれてもいいのにと思いながら、時間は過ぎていくのだった。

「じゃ、行ってきます」
 友達の家に泊まりに行く、と行って、僕は家族に見送られながら家を出た。友達は僕を迎えに来るということで外出して、病院前で落ち合うことになっている。その後は友達の家に泊まって、本当にいたか、いないかの話をするのだ。
 夜になると、外の空気はまだ少し冷たく、春っぽさを感じることこが出来ない。僕は衣類を詰め込んだリュックサックを揺らしながら、病院へと足を運んだ。
 本当なら、どうせいないんだろうし、という思いで参加できたのに、今日おじいちゃんがしてくれた話のせいで、もしかしたらいるんじゃないだろうか、なんて気持ちになってしまっている。
 病院に近づくに連れて、何故か空気が温まってきた。おかしいな、と思いながら、歩きつづけると、風が何かを運んできた。街灯に照らされているだけだから一瞬のことだったけど、それは間違いなく桜の花びらだった。何処で桜が咲いているんだろう。頭を捻りながら更に進むと、閉まっているはずの病院の門が空いている。本当なら、ここをよじ登って中を探索する予定だった。もしかしたら、友達が待ちきれなくて先に中に入っていってしまったのかもしれない。
 僕が、門を越えて、敷地内に入って、お化けが出ると言う桜の木を見つめた。
 ぽつり、ぽつり、と桜に明かりが灯っていく。しかし、明かりはすぐにひらりと舞いながら地面に落ちていく。もしかして夢でも見てるのかなと思って、買っておいた眠げ覚ましのガムを噛んで、ちょっと目をつぶって見る。意識が冴えたところで目を開けてみると、光の量が増えていた。
 よく見てみると、桜の蕾が花びらとなると、明かりがともり、何故かすぐに地面へと落ちていっているのだ。思わず、綺麗だなぁ、と足は動かなくなり、口は空いたまま、桜に魅了されていた。
「綺麗だよね、桜って」
 急に声がして、僕はふと我に帰った。桜の元に、誰かが立っていたのだ。暗くて見えなかっただけで、その人はずっとそこにいたらしく、肩にまだ光る花びらを乗せていた。
 舞い散った桜の花びらは地面に落ちて、光の足場を作っていた。だから、人がその上に立っているのを見てると、この人はもしかしたら天使か何かじゃないのかな、なんて錯覚に陥りそうになった。
 僕は何を喋っていいのか、言葉につまった。その人の声は高く、友達でないことは確かだった。こんな場所で一体何をしているんだろう。僕と同じようにお化け探しのためにここ来たのかな?
「あ、あの……」
「なーに?」
「えと、その……」
「ふふ、昼間とは大違いね」
「え?」
「ほら、今日、私あなたに手を振ったでしょ? 覚えてない?」
 それは身に覚えがあった。だから僕は思わず頷いてしまった。
「誰しも私が見えるわけじゃないから、ついつい嬉しくて」
「見える?」
「こっちに来てみて」
 僕は誘われるまま、歩み寄って、光に足を乗せた。近くに寄って分かったのは、僕に話し掛けてたのはやっぱり友達じゃなくて、同じくらいの女の子だった。
 女の子は一度にこりと笑ってから、僕に手を伸ばした。あまりにも急な行動に僕は何も出来ず、伸ばされた手を見ていた。手は僕の肩に触れるが、何故かそれが触れた、という感覚が沸き起こってこなかった。そして、女の子の手は僕の中へとどんどん入り込んできた。
 つい僕は悲鳴を上げ、一歩飛びのいてしまった。女の子はくすくすと笑っているのを見ると、明らかに僕をからかっていたらしい。
「大丈夫、私はあなたに何もしないわ」
「も、もしかして、本当にお化け?」
「ええ、立派なお化けよ」
「で、でも、足ついてる」
「みんな足がない訳じゃないわ」
 今度は僕が女の子に手を伸ばした。すると、女の子はひょいと身をかわして、舌をちょっと出して、片目をつぶって、意地悪く言う。「やーん、セクハラー」
「ち、ちが!」
「あはは」
 僕もそれにつられて笑ってしまった。こうやってると、女の子は本当に人みたいだった。だから、今まで抑えていた好奇心が溢れ出す。
「ねぇ、どうして桜が光ってるの?」
「この桜も一種のお化けだからよ。もちろん、普通の桜の時もあるから、二つの顔を持ってるんだけどね」
「つまり今はお化けバージョンなの?」
「そうそう」
 僕は一度上を見上げた。お化け桜から振ってくる花びらは地面には積もるが、僕の頭や肩には一つくっついていなかった。触れないんだろうな、と思いながら、手をかざして花びらを掴もうとする。花びらは僕の手がなかったかのようにすり抜けて、まだひらひらと舞い続ける。
「ねぇ、お願いがあるの」
 女の子は急にそう僕に切り出した。さっきまでの笑顔は消えてて、真剣な表情が、僕の心臓をドキリとさせた。
「私を外の世界に連れてって欲しいの」
「どういうこと?」
「今は言えないの……でも、チャンスは一度だけ」
「それが……僕なの?」
「うん」
 ずっとその場所にいなければいけない、というのは、どれだけ苦痛なんだろう。女の子はずっと誰かが来るのを待っていたんだ。
「嫌ならいいんだ。決めるのはあなただから」
 もし僕がここで首を振ったら、女の子はこれからも待つことになるんだろう。でも、ここまで来てしまって、僕は首を横に振ることなんて出来ない。だって、目の前にいるのは普通の女の子で、僕が助けられるのに助けなかったら、僕はずっとそれを後悔するだろうから。
「うん、いいよ」
「え? 本当に?」
「断る理由が僕にはないもん」
 その時の女の子が見せた笑顔を、僕は一生忘れないだろう。



「なぁ、どうだったどうだった?」
「んー、いたの、かな?」
「まじかよ! どんなだった!」
「女の子だった」
「嘘だろ、それ」
 友達が急に訝しげな顔になった向こう側に、僕にしか見えない人がいた。
 その人はにこにこしながら、友達の背筋を撫でた。すると、友達はびくっと反応し、後ろを振り返る。どうやら、そういうお化けらしいことは出来るらしい。
「嘘だと思う?」
「……まじかよ」
 女の子はお化け桜から離れることができた。しかし、今度は僕から離れなくなった。
 いろいろ理由があって、僕はそれを理解したけど、今はそんなことどうでもいい。
 しばらく友達、で、遊ぶのが先なのだ。
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