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お題「もうきっと離せない」

2010-03-11 | 23:56

お題「もうきっと離せない」



 私の名前はジミー。ほんの数年前から、とある活動をしてきた。それはとても些細で、そんなに大それたことではない。しかし、ふとその活動をするのを止めて、周囲の声に耳をすますと、私はこう呼ばれていることに気づいたのだ。
 詐欺師のジミー、と。
 やがて詐欺師としての名声が勝手に高まったのか、私は警察によって捕まることとなった。それは、私が庭に咲く花たちに水を与えていた時だった。赤、青、黄色、紫、白、桃、ありとあらゆる色の花々を愛でていた所に、警察は声を荒げて私の名前を呼んだのだ。そして、庭にずけずけと入り込み、私の手に縄をかけたのだ。
 警察は花々を気にもせず踏みつけた。彼ら、彼女らに、何の罪もないにも関わらず踏みつけたのだ。生を叩き潰し、捻り、奪い去ったのだ。その行為は、私にとって許し難いことだった。警察に縄をかけられることなど、別に問題ではない。私は悪いことはしていないのだから。何時か釈放されると分かっていたから、抵抗する気はなかった。
 しかし、目の前で、大切な命が毟り取られていくことに、私は我慢が出来なかった。体を使って、警察を花々が咲かないところへと押し出す。それ以上、命を殺めて欲しくなかったからだ。警察の目にはそれが一種の抵抗行為に見えたのだろう。私は他の警察に殴られ、地面へと押し倒されることとなってしまった。私はもう抵抗をする素振りを見せなかったにも関わらず、警察は私を殴り、蹴り続けた。痛みで飛びかける意識の中で、凛と立つ花がまだ残っていることに、私は安堵の息を漏らした。そして、意識を失った。
 目を覚ましたのは独房の中だった。薄暗い、石造りの部屋で、鉄の柵が一面にだけある。部屋の中には簡素なベッドに、バケツに入った水。それに欠片ほどしかないパンだった。
 看守は私に気づくと柵に近寄り、嫌らしい笑みを浮かべた。
「けけ、ようやく捕まったのかよ、ジミー。詐欺師だけじゃなくて、執行妨害も働いたそうじゃないか」
「それは誤解だ」
「知ったことかよ。ま、しばらくここからは出れねぇな」
「それはどれくらいだ?」
「ざっと二百年、ってとこだな」
「それは困る。私の庭の花が枯れてしまう」
「そうかいそうかい、そりゃあ残念だったな」
 看守はけひひ、と笑う。腹の底から、私の不幸を楽しんでいるように笑う。
「だが、一つここから早く出る方法を教えてやる」
「君にそんな権限があるのか?」
 この看守が持つ権利と言えば、独房に入った人間を罵倒し、汚い幸せを噛み締めることぐらいだ。私に何の罪も与えず、外に出す権利など持ち得ないはずだ。
「あるんだよ。お前、相当な詐欺師だっていうじゃないか。話によると、相当の金を毟り取ったって聞いてるぜ?」
「あぁ、その話か。確かに、詐欺師と呼ばれたな。金を返せとも罵倒されたよ」
「その方法をよ、俺にちょっとだけ教えろよ。そしたらここからこっそり出してやる」
「簡単なことだ。とあることを、教えただけさ」
「ほう、何をだ? 神のお告げとか、そういうヤツか?」
「違う。私が教えたのは、真っ直ぐに生きろ、ってことだ」
「……はぁ? 嘘ついてんじゃねぇよ! 本当のこというつもりになったら、話くらいは聞いてやるよ」
 看守はそういうと、柵から離れて、椅子の上にどさっと腰を下ろした。
 私は、嘘をついていなかった。今まで出会った人々に、本当にそのように助言したのだ。嘘をついて、生きないように、と。人を騙すことを喜びとしないように、と。時間をかけて、人の心に刻み込まれるように、話をしたのだ。
 当たり前のこと。今の時の中で、人々は忘れてしまっている。だから、それを伝えただけだ。
 私の言葉で、真っ直ぐ生きたつもりだった人たちは、周囲の人間に騙され、金や家族を奪われていった。だから、私に金を返せと言ったのだ。お前が悪いと、言ったのだ。
 それはとある男が、悪いヤツから話を持ちかけられた時のことだ。それが悪い話で、裏があるかもしれない、儲け話であることを男は知っていった。しかし、男は私の言葉を聞いてから、悪いヤツが提示した話をそのまま鵜呑みにしてしまったのだ。しかしやはり、その話には裏があったのだ。男は悪いヤツに全てを奪われてしまった、ということである。
 私が伝えたかったのは、そういうことではない。その話をきっぱりと断り、そして、その話を警察に伝える。それが正しき行為であったのだが、男はそれに気がつかなかったのだ。
 故に、私を詐欺師呼ばわりしたのだ。いや、始めはただの嘘吐きであった。それが人づてに話が伝わり、気がつけば天下の詐欺師となったのだ。
 この独房の中で、私は一生を終えるのかもしれない。しかし、後悔をしてはないない。失敗していった者たちだけを生み出した訳ではない。私の言葉をしっかりと胸に刻み込み、真っ直ぐに正しく生きてくれる者たちも生まれたはずである。そのもの達からは私の言葉を、もうきっと離せない。それだけで、十分である。
 ただ一つだけ願うのであれば、私が捕まったことに気づいて、助けに来るよりも早く、花々に水をあげてくれる者がいることである。
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Theme : お題
Genre : 小説・文学

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