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お題「さよならのいろ」

2010-03-14 | 00:52

お題「さよならのいろ」
 3月。梅の花が見ごろを迎え、花粉が飛び散る季節となった。ぽかぽか陽気、という日があれば、冬を思い出すような寒い日もある。
 今日の天気は、太陽が照りつけ、雲ひとつない、寒い日であった。学生服の隙間から入り込む風で身震いし、昨日までつけようともしなかった手袋とマフラーを身につけていた。
 高校生活最後の日が、とうとう来た。三年間、気がつけば友達を作り、試験を乗り越えて、部活に励み、大学入試を経験した。
 短かった。今思い出せば、時間の流れはとてつもなく早かった。試験前の一時間が三十分にしか感じないのと同じように、圧縮に圧縮を重ねたような、そんな時間だった。
 家の庭から自転車を引っ張り出し、いつもの道を漕いで進む。もうこの道を、通学という用途で使用することはないのだろう。最初の曲がり角にいつもいる横断歩道で旗を振るおばさん、狭い道なのに車で無理やり突っ込んでくる若い男の人、コンビニの隣にあるのにコンビニより繁盛している駄菓子屋さん、校門の前に何時も立っている律儀な校長先生。全てが明日からはないのである。存在はするが、朝に、必要とせずにも見ることになる景色が、なくなるのである。
 自転車を駐輪所に止めて教室に行くと、もう既に半数以上の生徒が教室にいた。その様子はいつもと変わっていない。ただ、ありのままの、いつもの教室だ。だが、そこが逆に不自然でもあった。今日という日の話題を、誰も振ろうとはしないのである。そもそも、何もない、これから退屈な授業が始まる、そう思っているように。
 全ての生徒が教室に揃い、スーツ姿の担任が生徒達を体育館へと促していく。
 そこには既にたくさんの人が椅子に座っていた。俺達三年生だけが遅れて登場なのだ。主役はいつも最後という訳である。自分の席へと歩いている最中に、横を見れば自分の親の姿があった。珍しく親父がスーツなんぞを着ていて、何処か不恰好であった。
 席について、しばらくして本日のメインイベントが始まった。
 卒業式だ。
 一人一人に、三年間の苦労をたたえるように、たった一枚の紙切れが渡されていく。実際に自分がそれを受け取ると、こんなにも軽いのに、大きく感じた。それは寸法の問題ではなく、イメージの問題。頭の中での問題だ。これを大きいと感じる。今の心理状態ということ。
 あちこちから、すすり泣きが聞こえる。友人の声、親の声、教師の声。
 卒業式も終わり、教室で最後の時間を過ごし、自転車を押し出す。校門を出る時、そこには校長先生がいた。優しい微笑みで、此方を見た。柔らかかった顔が更に柔らかくなり、こう言ったのだ。
「おめでとう」
 その言葉は親にも言われた。
「さようなら」
 その言葉は親に言われなかった。初めて聞いた、言葉。
 さようなら。さようなら。さようなら。
 折角、ここまで、我慢してきたというのに。この優しい校長先生のせいで全てがダメになった。
 視界がぐにゃりと歪みながらも、校長先生の脇を通る時に、どうにか口を開いた。
「……さようなら」
 あまりにも不甲斐ないさよなら。想像したよりも酷い形となった。形容してしまえば、それは赤が焦げたような、今の空とは似つかない色だった。
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Theme : お題
Genre : 小説・文学

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