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お題「エンドレスリピート」

2010-03-18 | 00:04

お題「エンドレスリピート」
 例えば一つの鎖があって、その鎖には始まりと終わりがあるものだ。
 でも、その鎖を繋いでしまえば、始まりは何処にあるのだろうか。終わりは何処に消えたのだろうか。輪となって繋がってしまったものに、それを見つけることは出来ない。
 一つの場所を始点としても、終点は見えない。終点を定めても、始点は逆算できない。それはつまり終わらない繰り返し。言ってしまえば泥沼を掻き分けるように。考えてみれば水に浮かぶ藁を掴むように。例えば暖簾を何度も押すように。
 エンドレスリピート。
 終わらない。ただ、始まりも、終わりも分からなくなり、それはただ続く。
 なくてはならない、始まりの再生、終わりの誕生。
 何処かでその鎖を断ち切らなくてはいけない。

 彼もまたその役目を担うことを理解していた。自分が、鎖を断ち切る側の人間、であるということを。ただ、齢十五の彼は、それを理解していなかった。それは知るということではない。分かるということでもない。
 理解するとは、それを受け入れ納得することである。数学の数式を覚えただけで、それは理解とは呼ばない。覚えたということで、その数式があるということを分かっているだけに他ならないのだ。彼は理解が出来る。しかし、理解しようとはしなかったのだ。いや、出来ないのだ。それを決定付けるのは、いくつかの理由があったとして、やはり年齢という要因は大きかった。
 人の“負”の感情は、巡り巡って、数を増やしていく。それは誰が作ったのかも何時の日かには忘れ去られ、手のつけようがないほどの巨体になる。やがて負は腐り、膿を出す。
 へばりつく膿は更に人に寄生して、“憎”を生み出す。負よりも強く、消しがたい感情。誰かへの劣等感ではなく、復讐心。直接的に思いが溢れる感情、特定された個人への恨みは、何時しか爆発する。
 負の感情は、抑制が効く場合もあるし、快方へと向かう場合もある。他人の手を借りれば、いつかは消すことだって出来る。所謂、コンプレックスともいえるべきものだ。
 だが、憎しみはどうだろうか。消えるだろうか。親が目の前に切り刻まれた時。空腹で死にそうな時に目の前で貴族がケーキを食している時。何もせずとも殴られ金を毟り取られた時。大切な存在を奪われてしまった時。
 それはふつふつと腹の中に根付く種である。火で炙れば勢いよく燃え、水をやれば花を咲かして毒を撒き散らす、危険な種なのだ。
 人間から、この感情を取ることは出来ない。それこそが、人間であり、存在の証明の一旦ともなっている。制御できないものを何時の間にか勝手に作り上げていたのだから、人は面倒でろくでもない。
 彼は、その人間たちから種を取り除かなければいけない。それが、彼が担わされた宿命だからである。逃れることが出来ない運命は、彼を鎖で縛り上げる。
 彼の眼前にいるのは、彼よりも幼い女子だった。茶髪のみつあみで雀斑があった。緑色の瞳の中に色濃く燃えた漆黒の炎は、身の毛がよだちそうである。
 女子は罪を犯した。それは、両親の殺害だった。
 父親の仕事帰りを狙って物陰に潜み、その首を鉈で横なぎに一閃した。女子は死体を処理することなく、家と帰宅した。そして、血塗られた鉈で同じように母親を殺害。翌日、警察が女子の身柄を確保し、この場所へとつれてきたのだ。
 彼は警察ではない。しかし、女子がどうしてそのような行為をしたのかを聞くのは、彼の仕事だった。
「どうして、父親を殺害したのですか?」
「嫌いだったからです」
「どうして嫌いだったのですか?」
「暴力を奮うからです」
 そういう女子の顔には青あざがあり、スカートから見える足にも打撲の跡があった。それが嘘ではないということは、周囲からの情報ですぐに確認出来た。女子とその母親は常に父親の暴力に悩まされていたそうである。それが犯行の原因。たまりに溜まった憎しみが炸裂した瞬間。もう留めることが出来なくなった感情があふれ出した刹那。
「では、どうして、母親を殺害したのですか?」
「好きだったからです」
「……好きで殺害したのですか?」
「はい」
 決して間違ったことはしていないと、強い意思を持った真っ直ぐな目をして女子は言う。
 彼は数瞬、目を瞑った。そして、大きな息を吐く。
「それでは、これで終わりとします」
「はい」
 女子は少年の前に立っていた訳でも、座っていた訳でもない。薄暗い一室で、彼は黒いローブと斧を、女子は石造りの枷を嵌められてうつ伏せになっていたのである。
 女子は分かっていたのだ。母親がもし生きていればこのような状況になるということを。そして、若い者から順に、この時間が来るということを。
 彼は、斧を振り上げる。手に伝わる重みは、決して軽いものではない。感情を押し殺し、息をのみ、目を閉じて。
 一閃。
 悲鳴も聞こえず、処理が終わる。
 彼は、処刑人。
 この国で人殺しを行った者と、その家族は、処刑されることになる。親類にあたる者は全て国外追放を受ける。それが決まりで、宿命だった。
 そこに転がっているのは、昨日殺害された男と同じように首から切断された女子の顔。口を結び、目を閉じて、涙一つ流していない女子。彼はそれを見ることが出来ない。
 彼は斧を上げる。瞑った目から、一筋の涙が落ちる。女子の顔にそれが零れ、まるで女子が泣いているかのようにも見えた。
 彼の葛藤もまた、永遠に断ち切れることのない鎖の中に入ってしまっている。
 無くそうとしている人たちの中に潜む、場所を変えただけのエンドレスリピートは、この世からは決して消すことが出来ない。
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Theme : お題
Genre : 小説・文学

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